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『ノースマン』にみる、スウェーデンと日本の映画宣伝の大きな違い

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スウェーデンでは昨年春に公開された映画『ノースマン 導かれし復讐者』が昨日から日本でも劇場公開されている。私が見たのはウクライナでの戦争が始まったショックが毎日を暗くしていた時期だったこともあり(それは未だにそうかもしれないが)、この映画のことをニュースレターでこう書いた。

これは最初から最後まで「人が人を殺す話」だった。大自然の中で延々と人と人が殺し合いを続けるのを観続けるこの虚しさは、レオナルド・ディカプリオの『レヴェナント: 蘇えりし者』に通じるものがある。

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しかし、この映画はこういう映画でもある。

北欧のこのちょっとした超自然の神秘な感じはどこからくるのだろう、と製作陣の名前を確認していたら、『Lamm』の不思議な世界観を作り上げたアイルランドの作家で詩人のショーンがこの『ノースマン』でも監督と共同で脚本を担当していた。

ジャンルはまったく違うけど、ノオミ・ラパスの『LAMB/ラム』の不思議な感じにはまった人は『ノースマン』もきっと面白くみれるはずである。

そして『ノースマン』配給に関わるマーケティングを眺めていると、日本では映画を売るのにどれだけ広告やプロモーションに力がかけられているのか、スウェーデンでのやり方とどれほど違うかがよくわかる。

存続の危機には陥っているが、スウェーデンには未だにメディア所属のプロの映画批評家という職業が健在で、彼ら彼女たちの多くは、テレビや新聞といったメディアの社員であり、プロの目から映画批評を行っている。映画が公開されるとき広告の材料として使われるのは、この各新聞やテレビ、雑誌が5点満点で何点をだしたかである。

スウェーデン映画協会が運営しているスウェーデン映画データベースにも、少し前からこのプロの批評家による映画批評を掲載しているメディア5社以上の採点の加重平均値が掲載されるようになった。これによると 『ノースマン』は3.42で、一定の評価を受けた映画であることがわかる(この映画はアメリカ映画だけど、このデータベースにはスウェーデンの映画館で配給された外国映画の情報なども掲載されている)

一方、日本で広告の材料として使われるは、映画評論を主な生業として各種メディアで活躍しているフリーの評論家のコメントの他に、著名人、インフルエンサーたちが映画を観たコメントで、映画のカタログサイトでは、アマゾンと同様、一般の人たちが評価した、専門知ではなく集合知による採点が掲載されている。専門家の意見やちまたの情報をどう評価するかという問題は、コロナでも散々考えさせられたが、映画ひとつをとっても国民性の違いといったものが現れていて興味深い。

そして、また日本の映画のプロモーションサイトには、その映画や背景に関わる細かい情報がこれでもかと掲載されることになる。その集大成が今でも映画ファンに人気の映画館で販売される「パンフレット」だけど、この映画をみたりこの映画の情報に触れることで鑑賞者の間での、例えば「バイキング」に関する情報量は、きっと日本のファンの間でのほうがぐんと増えたはずである。

スウェーデンでも1本の映画にこれだけの手間暇をかければ、もしかしたら映画の広がり方も変わるのかもしれないけれど、こんなに手間暇をかけなければいけない仕事を一日8時間の勤務時間中にできる映画配給会社や宣伝会社の社員は、きっとこの国にはいない。やりがい搾取という言葉がちょっと頭をよぎるが、それとも日本の人たちは圧倒的に仕事の効率がよいのだろうか?

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映画の配給の仕事と言えば、この冬休みに京都の丸善で偶然こちらの本を見かけ、買って読んだら抜群に面白かったので、映画の製作や買付配給に興味のある方には強くおすすめしたい。

今も現役の映画プロデューサーとして活躍する吉崎道代さんの、彼女にしか語れない圧倒的な仕事の舞台裏の話です。『嵐をよぶ女 アカデミー賞を獲った日本人女性映画プロデューサー、愛と闘いの記録 』

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