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ルーベン・オストルンドが語る「映画館で映画を見る」ということ

逆転のトライアングル』で米アカデミー賞の主要3賞(作品賞、監督賞、脚本賞)にノミネートされているルーベン・オストルンド監督は、映画館で映画を見ることの重要性を強調する。

開催中のヨーテボリ映画祭で「映画を見る観客に映画の見方を指導する」というちょっと変わったイベントに姿を表したオストルンドは、ストリーミングサービスやスマホなどの浸透で、映画を見るという体験が「個」の体験になってしまったことを嘆く。

私も参加したこのイベントで、オストルンドが私たちに出した演出指示は、映画を見ることで湧き上がった感情を積極的に表現すること。面白い場面では大声で笑ったり、またブーイングを出したり、いいと思ったところでは拍手喝采する。映画館での映画鑑賞を、劇場での体験のように感じてもらい、また『逆転のトライアングル』はそのように見てもらうのが楽しい作品であるはずと言う。

スウェーデンでも映画館に足を運んで映画を見る観客は年々減り続けているが、映画館体験を喚起したいオストルンドは、今、スウェーデン映画協会にひとつの提案をしているという。

それは映画が公開される際に、監督や脚本家、そして出演した俳優たちがスウェーデン各地の映画館で観客と対話するイベントを立ち上げ、映画館はそのイベント販売することで、イキイキとした文化体験の提供により各都市の文化ハブになり、またイベント販売からの収益もあてにできるというもの。スウェーデン映画協会から助成を受ける映画が年間40本あって、各映画が10都市をまわるとすると、年間400回のそのようなイベントが開催できるとオストルンドは説明する。

映画の制作側も、公的機関から支援を受けることにより、映画の収支に関してそれほど心配することがなくなるので、作ってしまった後は批評家たちや映画祭での評判は気にするが、生の観客からの反応に関心をなくしてしまうという弊害を指摘するオストルンドは、この都市をめぐる上映会はそのような問題も解消すると自身の提案を強く推す。

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土曜日に行われたこちらのイベントでは私たちが笑ったり、拍手喝采する練習をする前に、会場の緊張を解すためだろうか、オストルンド監督はちょっとした仕掛けを仕組んでいた。事前に実名、年齢、職業、収入などの基礎情報と、これまでに経験した恥ずかしい体験などのアンケートに答えていた人は、会場で名前を呼ばれて手を上げた後で、その内容をオストルンドから暴露されるという目にあった(私の後ろに座っていた弁護士は月に10万クローナ稼いでいることをオストルンドに大声で発表されていた)。

オストルンドは、本当にちょっと気まずい、でも核心をつくような時空間を演出をするのが上手だ。

イベントでは『逆転のトライアングル』の演技指導の際に俳優たちに見せた「”恥”をみごとに表現する犬」、「不平等に扱われた際にその怒りを表現するサル」などのYoutube動画の紹介もあった。Youtubeに無数にある動物動画は、演技指導にとても有効なのだとか。

『逆転のトライアングル』は日本でもこの先2月23日から劇場公開される。ぜひみんな映画館に足を運び、大笑いしながら見てくださいね。

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オストルンドが観客に演出指導。「積極的なリアクションを」(SVT)

© Hiromi Blomberg 2023