swelog ニュースで語るスウェーデン

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表現の自由? 市民の安全? テロ計画と、そして裁判で負け続けていた警察

昨日の夕方ヨガのクラスに行って、帰ってきたらスウェーデンの日本大使館からの安全情報メールが届いていた。「スウェーデンにある教会を標的としたテロを計画した疑いのある兄弟がドイツで逮捕された。テロの標的になりやすいところに行くときは注意し、安全の確保を」と書いてある。

背後にあるのは、もちろんデンマーク、スウェーデン人のラスムス・パルダンによるコーラン焼却のアジテートで、その後テレビのニュースをみたらそこでも大きく取り上げられていた。彼のスウェーデンでのコーラン焼却の行為を扱うニュースは、ちょうど1年ほど前のこちらの事件あたりから大きくなっている。

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私は昨日ちょうど、スウェーデンの警察がパルダンによる集会開催許可申請を何度も却下していたが、これは表現の自由の観点から正しい行為ではないと、行政裁判所で10度も敗訴の判決を受けていた、という記事をダーゲンス・ニュヘテルで読んだばかりだった。

パルダンは、スウェーデンが憲法でも一番大切にしている表現の自由をたてに、扇動的な行動をやめない。スウェーデンの警察はこの法の遵守と市民の安全との間に立ち、パルダンの行動をやめさせようとしているが、それは法律違反の行為でもある。

この記事で初めて知ったが、デンマークでStram Krus党の党首であったパルダンは、2020年の秋、マルメでコーランを燃やすことを計画したが、これを社会的脅威だとみなしたスウェーデン警察からスウェーデンへの国境で入国を止められ、2年間の入国禁止の処分にあった。その後彼は、スウェーデンの二重国籍を取得し、この入国禁止は解除された。もともとデンマークとスウェーデンにルーツのある人だと思っていたが、この記事を読む限りはコーラン焼却のため、そしてスウェーデンで「政治家」として活動するために、わざわざスウェーデン国籍をとったと理解できる。ほんとうにやめてほしいが、きっとこの時にも国籍取得申請をスウェーデンは却下できないことを十分知っていた上で行動だったのだろう。

それからは、警察がパルダンのデモを止めようとしたり、集会の場所を変えようとしたり、最後の手段としてコーランの焼却を全面的に禁止しようとしたが、その多くは裁判所により違法の判決を受けている。訴えたのはもちろんパルダンだ(警察やスウェーデンのイスラム関連団体によるものもある)。しかし最近では、そのうちいくつかで警察の対応を支持する判決もでている

今回、具体的な爆発物によるテロ行為が計画されていたということで、スウェーデン国内でのパルダンの扱いが変わるのかもしれないが(また、パルダンは何度も殺人予告を受けており、また警察が保護してくれないといって、スウェーデンにくることをやめるとも話している)、この一連のパルダンの集会開催許可申請却下の扱いを、警察権力、さらにはその背後にある政府の意向で、「表現の自由」が弱められていると、警鐘をならす声も聞こえてくる。このあたりの感覚は私のような日本人には少しわかりにくいが(こんな行為、さっさとやめさせてしまえばいいのにと思ってしまう)、スウェーデンを最もスウェーデンらしくしているもの、それが表現の自由なのだから、スウェーデン国家権力は、この危険な人物を簡単に取り締まれないという大きなジレンマがある。

昨日急に、1ヶ月も前にドイツで逮捕されていた兄弟のニュースが出てきた背景にも、これで世論を得て、スウェーデンでのコーランの焼却の禁止を法律として整備してしまいたい政府と警察の意向が反映されているのかもしれない。このままではスウェーデンはNATOにも加盟できないし。

内部リーク情報・警察は法律をくぐり抜けてパルダンを止めた(ダーゲンス・ニュヘテル)

スウェーデンの教会でのテロ行為の計画で兄弟を逮捕(SVT)

表現の自由といえば、やはりこちらも思い出さずにはいられない。

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© Hiromi Blomberg 2023