社会のあり方は言葉によく現れる。日本ではよく「今年の流行語」が取り上げられるし、スウェーデンにもその名も『Språk(言語)』という雑誌があり、世相を反映する新語を年に一度発表している。
スウェーデンの誰も知らない新語大賞 - swelog (2019年)
その『Språk 』がこの度まとめたのは、言語的見地から見た1900年以降のスウェーデンに起こった100の重要な出来事。ランキングは100名以上の主要言語学者の意見も交えてまとめられたものだ。
そして、映えある一位は『Du改革』。それまでは家族間などごく親しい人にだけに使っていたDuという二人称の呼びかけの言葉を、職場などの公な場所でも使うようになった大きな社会的変化のことを指す。
Du改革は、1967年に大組織のトップであったブロール・レクセッドが「これからは私をブロールという名やDuで呼んでくれ」と従業員に呼びかけたのが契機であるとよく言われているが、実はその前から同様の動きが長く続いていたことも今回のランキング発表裏話で紹介されている。
それまでの二人称単数の尊敬語として使用されていた「Ni」の使用をやめるだけでなく、呼びかけも名字での「ミスター、ミセス」調のフォーマルなものから、下の名前でのカジュアルな呼びかけに変わっていった。
私はスウェーデンで暮らして20年になるが、この「Du」やカジュアルな下の名前での呼びかけの力の大きさを日々実感し続けている。
義理の母でも、学校の先生でも医者でも、会社の社長でも、首相であっても、本当に誰でも(さすがに国王に面と向かってグスタフと呼びかけてはいけないのであろうが)気軽に名前で呼びかけることは、人と人との間に上下関係をつくらず、誰の意見も等しい価値があると自然に考えることができる土壌を作るのに本当に役立っていると思う。役職や肩書は役割を示すものであって、人間の貴賤上下を表すものではない。
日本でもコロナ禍で最近よく使われるようになったZoomなどのビデオ会議の画面では、上司も部下も同じサイズで配置されるので、変な上下関係がなくなったと聞いた。日本社会にもこのスウェーデンのフラットな感覚が少しは広がるといいなと思う。でもいきなり日本の職場で「健太郎さん」「優子さん」と呼び合うようになるとちょっと親密さがすぎるので😅、まずは役職での呼びかけをやめて、だれでも「さん」づけで呼んでみるくらいから始めるとちょうどいいのかもしれない。
さて、この100の出来事ランキングには、8位に「スウェーデン語が国家言語に・2009年」(それまではそうじゃなかったのか?)とか、10位に「移民へのスウェーデン語教育始まる・1994年」とか他にも興味をひくものも。Språkのサイトではこの100の変化のすべてを読むことができるので、興味ある方はぜひどうぞ。