- 作家とのブレックファースト・ギャザリング
- チェーン店しか残っていない本屋さん
- お店がなくなり、チェーンストアとEコマースが残った
- 思いがけない本との出会いの驚きと喜びはどこへ?
- 本ではなくて本屋を売る
作家とのブレックファースト・ギャザリング
4月のある土曜日、街の本屋で朝9時から始まるブレックファースト・ギャザリングに参加した。営業前の本屋に設営された会場で、新刊を出したばかりの人気作家の講演会と、おいしいコーヒーとサンドイッチの朝食付きで参加費は80クローナ (約1000円)。
参加費のレシートは、新刊の割引クーポンにもなっている。イベントが実施された本屋で対象の本の通常価格は249クローナ(約2900円)。新刊記念の特別価格で既に50クローナ(約600円)安くなっていた本を、クーポンでさらに50クローナ割引してくれた。
スウェーデンではよく「一番需要が高いタイミングで、価格を下げる」という、大阪の血が濃い私からするとちょっと信じられない手法がよく取られるのだが、この話はまた機会をあらためゆっくり検証してみたい🧮
この日の本は、科学ジャーナリスト系有名人が書いて去年爆発的に売れた「抗・炎症のライフスタイル」本の続編ということで、中高年女性を中心に100人近くの人が集まっていた。
参加費を払うがそのかわりに本を安く買うことができるという、金銭的なところだけみると得したのかどうか今一つよくわからないイベントの枠組みだが(そこが狙いか?)、土曜日の朝、用意した椅子だけでは足りないほどの多くの人を本屋でみるのは、ワクワクする心躍る体験だった。
こちらはストックホルムでの別の作家講演会の様子。Av Frankie Fouganthin - Eget arbete, CC BY-SA 3.0, Länk
チェーン店しか残っていない本屋さん
会場となった「アカデミ・ブックハンドレン」はスウェーデンで125店舗を展開する本と文具販売のチェーン店。私が住んでいる中堅都市ルンドで、ほぼ唯一残った一般書籍販売店だ。
この本屋の他にも、ペーパーブックは駅のコンビニやペーパーブック専門店で売られており、また、ルンドには学生向けの教科書や言語関連本、また主に宗教関連書店があるが、これは大きな大学や大聖堂があるという特殊事情。
アカデミ・ブックハンドレンは、各都市にあった独立経営の本屋を買収していくことで大きくなってきた。その結果、街に今もまだ残る本屋はこのチェーン店か、Ugglan(全国88店舗)というブランドで展開しているもう一つの本屋チェーンくらいしかない。
お店がなくなり、チェーンストアとEコマースが残った
そもそも本は、とっくに本屋で買うものではなくEコマースで買うか、オーディオや電子ブックといったデジタル方面で楽しむものへと移行している。
スウェーデンでも本屋に限らず、街の中心地にあった個人商店はどんどんなくなり、小売の中心はEコマースと、郊外にあるショッピングセンターにすっかり移ってしまった。ショッピングセンターに入っているのはチェーン店ばかりで、どこにいっても同じ製品と同じサービスと提供している。はっきりいってつまらない。
ストックホルムやヨーテボリといった大きな都市に行くと、個性的な古くからの個人商店も残っているが、中規模の街では扱う製品がなにであっても、独自に仕入れて販売することで商売を成り立たせるのは難しそうだ。
本屋は「アカデミ・ブックハンドレン」になり、電気屋さんはElonになり、個人の洋服やはつぶれてチェーン店が入居する、もしくはずっと次の入居が決まらず空になった店舗がさみしく放っておかれている。
街中には、その場でサービスを提供するものーカフェやレストランや、美容室やネイルサロンや花屋さんしかこの先残らないのだろうか?
思いがけない本との出会いの驚きと喜びはどこへ?
なんとか生き残ったアカデミ・ブックハンドレンは、どこもそれなりの規模もあるし、最近はノン・ブックと呼ばれる文具などに力をいれており、日本でも人気のリサラーソンとのオリジナルコラボ製品を出したり、売上も伸びている。
話題の新刊はなんでも揃っており、そしてこれだけの規模が確保できるから、出版社から大量に(おそらく安く)購入したり、他のチャネルに先行した独占発売などのキャンペーンも実施できる。
ちなみにスウェーデンでは書籍の価格再販制度はない。毎年2月に本の大々的なバーゲンセールもある。
しかし、アカデミ・ブックハンドレンが扱わないと決めた本とは私達はどこで出会うのだろう?もちろんEコマースサイトでは扱っているだろうが、メインストリーム以外の本や少し前にでて、じわじわ売れている知る人ぞ知る本は?
アカデミ・ブックハンドレンに並んでいる本は書評も出て、ベストセラーになるような本たちが多いし、本屋に行く前から表紙も内容もなんとなく知っている本たちがピカピカと並んでいるが、どこにいっても同じ本としか出会わない。
本ではなくて本屋を売る
私は、日本に帰る度に本屋に行くのを楽しみにしている。
大きな書店では、京都には丸善が戻ってきてくれたし、大阪の梅田まで出ればおしゃれで大きな蔦屋があり、話題の新刊の中でもでもちょっと一癖ある魅力的な本を集めて並べてくれていたりする。
さらに京都には、恵文社などの本を売っているのではなくて、本屋を売っているすてきな本屋がたくさんある。下の記事のB&Bという下北沢の本屋さんも「本屋」を売っている。
本が売れないと言われているこの時代、日本では本屋をうっている本屋さんが少しづつ増えてきているような気がする。
本だけならネットで買える。本屋がもっていた街の知的ハブとしての役割を維持して、これからは講演やイベントやお茶したりや勉強会や、まぁ、なんでもいいので、スウェーデンでも、もっと人が集まるような場所に本屋がなればとても嬉しい。
と、ここまで長々書いてきたけれど、今日はなにが言いたかったかというと、魅力的な本屋さんに行こうと思えば、結構すぐ行ける日本に住んでいる人がちょっとうらやましいということと、唯一しっかりのこっているスウェーデンの本屋チェーンのアカデミブックハンドレンもそんなに経営が順調なわけではないので、本屋を街に残したいと思っているスウェーデンに住む皆さんはEコマースより高くても、店で本を買ってください、ということかな?
そしてルンドのアカデミ・ブックハンドレンは、はやくカフェを併設してもっと人が集まるような形態にしてくれたまえ! ブレックファスト・ギャザリングはあんなにうまくいったのだし。
マルメにはご近所の人が集まる場所にしたいという志で、週に1日くらいやっている本屋さんがあるそう。 今度、開いている日に一度行ってみよう。