swelog 今日のスウェーデンのニュース

多様化社会、環境、移民、働き方などスウェーデンのちょっと違った「ほんまかいな!」なニュースから、毎日ひとつ選んで紹介しています

氷の女とマインドフルネス寒冷浴 swelog weekend

 

f:id:hiromi_blomberg:20200215194218j:plain

サウナ、じゃなくてカルバアド

私はスウェーデンのカルバアド(寒冷浴)が好きだ。

スウェーデンのカルバアドは、フィンランドのサウナと共通点もあるが別物だ。サウナの喜びが体をやさしく包む熱い蒸気やその後の外気にあるとすれば、カルバアドの魅力はその名の通り「冷たい水で沐浴」する点にある

スウェーデン語のカルバアド(Kallbad)をそのまま訳せば「冷浴」

スウェーデン各地にあるカルバアドヒュース(Kallbadhus・寒冷浴の家)海上や湖上または岸辺に建てられたサウナのある施設のことで、サウナで体を温めたり、そこからそのまま裸で冷たい海や湖に飛び込むことができる。ここでの体験の核は「冷たい水」にある。

(カルバアドとはどんなところか、そこであなたを待つすばらしい体験とはどんなものかは、下記の紹介記事にまとめたのでよければご参照ください)

スウェーデンのIcewomen

先日、スウェーデンのカルバアドのメッカ(自称!)であるヘルシンボリで開催されたカルバアド・ウィークという催しで、Icewomenを名乗る女性2人のユニットの講演会に参加し、そこで彼女たちにインタビューする機会を得た。二人の言葉からカルバアドの楽しさを紐解いていこう。

アルグレンとヴァグネリンド。名字は違えど、寒冷浴の魅力にはまった2人のリンダ&リンダは、2018年末にその名も『Kalla Bad』(寒冷浴)を出版した。

画像1

通常はヨガ&ピラティスセンター経営者(アルグレン)とアーティスト(ヴァグネリンド)として活躍している2人は、寒冷浴を通じて結びつきその魅力をもっと多くの人に伝えるためにIcewomenというユニットを結成した。

これまでもスウェーデンのヨーテボリを中心に講演会やワークショップなどを行っていたが、より多くの人を対象にカルバアド(寒冷浴)を紹介し、カルバアド研究や実施する際の注意事項などをまとめたのがこの本だ。

本の表紙には、2人が凍てつく流氷の間で瞑想しているかのように気持ちよさそうに浮ぶ写真が使われている。この他にも氷の世界で撮影された美しい写真を惜しみなく使い、アーティストの方のリンダのモノトーンの筆の筆致が美しい作品も挿入されて、装丁も彼女の手によるとても美しい本だ。

画像2

(本からの写真はすべて出版社Bonnieのサイトから。Copyright/fotograf: Linda Vagnelind)

いきなり寒冷浴

スウェーデンの寒冷浴が好きだ、とはいっても私がこれまで体験してきたカルバアドはあくまでサウナ施設と一緒になったもの。一方Icewomenが推奨するのは「いつでもどこでもいきなり寒冷浴」。自然の中の好きな場所でおもむろに服を脱いで冷たい水に入ってそのまま出てくる、ちょっとハードコアな寒冷浴だ。

「いつでもどこでも寒冷浴」を可能にするには、スウェーデン特有の状況がある。スウェーデンですべての人に与えられているのが自然享受権。土地の所有者に損害を与えない限りにおいて、すべての人が他の人が所有する土地へ立ち入り自然を楽しむ権利がある。

そしてIcewomenは本では水着だが、スウェーデンには公衆で裸になることを禁じる法律はない。周囲の人を不快にさせたり迷惑になる行為は禁じられているが、そうでなければどこでも気に入ったところでさっと裸になって泳ぎはじめてもなんの問題もない。

「いつでもどこでも」という点では、最近世界中で人気の「ワイルド・スイミング」や「アウドドア・スイミング」に近いところがあるが、カルバアド・寒冷浴はあくまでも冷たい水にはいるという点にフォーカスしている点が少し異なる。

寒冷浴の効用

リンダたちは、寒冷浴をすればこんなに心身によい影響がありますよ、ということを予め理解してカルバアドを始めたわけではない。いわば自然に呼ばれるような形で冷たい水にはいっていったわけだが、そのよさを人に伝えるためには科学的なエビデンスを用いて説明する必要があった。

サウナや入浴効果の研究はフィンランドや日本で盛んだが、冷たさに身を晒すことと健康との関係性についても徐々に研究成果が集まってきている。『Kalla Bad』には以下の効能がまとめられている。

習慣化すれば免疫力が高まる
・気分がよくなりストレスに強くなる
・痛みが弱まり体内の炎症が減る
・より深く眠れるようになる
・習慣化すると血圧が下がる。ストレスフルな時にもストレスホルモンの出方が減り、血圧も上がりにくくなる
・血流がよくなり、脂肪燃焼を高める黄色脂肪が増え、代謝がよくなる
・トレーニングの疲労回復を早め筋肉痛を和らげる
・心肺機能を高め、寿命が伸びる
・身体コントロール力が高まり、集中力も高くなる

なるほど、どれもこれもいいことばかりだが、どこかできいたようなことばかりでもある。ランニングを勧める本にも似たようなことが書かれていたような気がする?

寒冷浴は心臓発作につながり危険! といったよくある心配を払拭するためにも上記のような科学的エビデンスを伝えていくことは確かに重要だ。しかし私がリンダたちの言葉から理解したカルバアドの真髄は別のところにある。

それが『自然速攻マインドフルネス』『一に呼吸、二に呼吸、三四も呼吸で五も呼吸』『そしてやってくる一撃』だ。それぞれ少し説明していこう。

『自然速攻マインドフルネス』

頭の中が、やらなければいけないことや心配事や不安でいっぱいな私たちの日常。”今、ここに意識を集中するマインドフルネス”の重要性が語られ始めて久しいが、マインドフルネスは意外と難しい。心を落ち着けるために瞑想してみても、なれないと余計に余計なことを考えてしまったりもする。

そんな人でも寒冷浴は、時には冷たすぎる水に入ったとたん、否応なしに心身のすべてでその状況に全力集中することが求められる。海や湖などの大自然の中の広すぎるような空の下で、全裸や水着一枚という頼りない姿になり、瞬時に体を包む痛いほどの冷たさにすべての意識を集中する。

あなたの寒冷浴がたとえ1秒や5秒であったとしても、水から上がった時にはすべてが一変している。それが寒冷浴の『自然速攻マインドフルネス』だ。

『一に呼吸、二に呼吸 三四も呼吸で、五も呼吸』

そして、呼吸。なれない人は息を詰めて水に向かい、冷たいと叫びながら水から飛び出てくるものだが、寒冷浴賢者は、呼吸とともに水に入り、呼吸と共に水を楽しみ、呼吸と共に水を後にする

講演会の限られた時間の中で、リンダ&リンダがデモンストレーションも交えて強調していたのが寒冷浴における呼吸の大切さだ。あなたの寒冷浴体験をすばらしいものにするすべての鍵は呼吸にある、といってよい。

普段の生活でもストレスで息が浅くなっている時、深呼吸をするなど呼吸を変えることで私たちは気の持ちようを変化させることができる。それを一番鮮やかにみせてくれるのが、寒冷浴時の呼吸による心身コントロールだ。氷点下の気温の中で凍ったような水にはいるという体へのストレスフルな状況を、深い息を吸って吐くことでコントロールし自分の手中に状況制御能力を収める。

こうして自己肯定力は強めることができる、と二人の言葉から私は理解した。

『そしてやってくる一撃』

そして寒冷浴信奉者を惹きつけてやまないのが、水からでるとすぐ『そしてやってくる一撃』だ。

冷水下の厳しい環境に対応するため体はストレスホルモンを放出して血圧を上げるが、生き残るために血流は手足へは制限され生存に関わる心肺に集中する。

冷水から上がると一気にその状況から開放され、血が体中を駆け巡る爽快感に包まれる。体が危機的な状況から逃れることでエンドルフィンやドーパミンといったホルモンによる多幸感を感じ始め、さらには心理的な達成感で心は高揚する。

ほんの少しの間日常を離れ、お気に入りの場所で大自然の冷たさからこれ以上ないレベルのエネルギーの一撃を受け取って日常へ戻る。リンダ&リンダによるとその余韻は数時間から数日も続くが、少しするとまたその『一撃』を求めて彼女たちは冷たい水に戻っていく。

画像3

男はサウナで語り、女は寒冷浴で自分を取り戻す

ヘルシンボリ市によると、今回の企画の参加者の90%近くが女性で、またカルバアドヒュースの利用客の構成も近年は女性、それも特に若い女性が目立つという。

フィンランドの優れたサウナドキュメンタリー『サウナのあるところ』にもあるように、サウナは普段は無口な男たちも饒舌にするようだが、スウェーデンのカルバアドヒュースのサウナでは話は控え目が奨励されている。もちろん、久しぶりにサウナで友人と会って思いっきり世間話に花を咲かせる人たちもいるが、自分とだけで過ごす時間を求めてやってくる人も多い。

冷水で自分と自分の体を取り戻し、自然に戻る場所と行為。これがスウェーデンの寒冷浴だ

サウナで体を温めることなしに「いきなりどこでも寒冷浴」は苦行すぎて自分にはまだ考えられないと打ち明けた私は、リンダ&リンダからアドバイスをもらった。

「体をサウナで温めないでそのまま冷水に入るほうが、体温と水温の差が低いし、心臓への負担も低い。騙されたと思って試してみて。ただし落ちついてゆったりと呼吸しながら試して」、と。

昨日訪れたマルメ市のカルバアドヒュースでは気温が3度で、海水温度が4.5度だった。私はやはりサウナで体を先に温めることなしには海に飛ぶこむことは考えられなかったのだが、きっと次回こそは、人生初の「いきなり寒冷浴」に挑戦してみよう!