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リネア・クラーソン スウェーデンで一番恐れられてる女 swelog weekend

レインボーヘアーのアクティビスト 

『私はリネア・クラーソン。フェミニストで、人権のために活動するオピニオンリーダーです。SNS特に「アスホールオンライン」というアカウント名のインスタグラムを運営しています。世界がもっと賢明で人に優しく勇気にあふれた場所になるように、毎日戦っています。』

現在27歳のリネア・クラーソンは、元ハンドボールのエリート選手。現在はスウェーデンを代表する社会問題活動家、人気の講演者として活躍している。

彼女は女性への性暴力やマイノリティーの権利、移民、差別といった大きな社会問題を私たちの身近なものとして語り、個々人が勇気をもって行動しなければなにも変わらないと鼓舞する。

昨年は国連や弁護士組合(ストックホルム大学で法学の勉強中)さらには「影響力のある講演者連盟」などから人権のための貢献賞や名誉賞を受賞している話題の人だ。

この春はスウェーデンで一番人気のあるテレビ番組の一つ『レッツダンス(有名人が特訓してペアダンスを競う番組)』にも登場して自身の活動にもさらなる注目を集めた。

スウェーデンで一番恐れられている女 

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「売女! お前なんか強姦されてしまえ、吐き気がする、(ペニスの写真と共に)これでもナメてろ! 死ね! ISに誘拐されてしまえ、裸になれ……」

今週の月曜日にマルメで行われた講演会の冒頭、リネア・クラーソンは日常的に彼女に送られてくる脅迫や罵詈雑言を読み上げることから始めた。それは数分に渡って続き、あまりのひどさに聴いているだけで涙が出てくるレベル。

「……スウェーデンで一番醜い女、そして”スウェーデンで一番恐れられてる女”。うん、この最後のは実はちょっと自分でも気にいってるの」と、笑うリネア・クラーソン。

彼女が2015年にはじめたインスタグラムのアカウント「アスホールオンライン (Assholesonline) 」は、今ファンとアンチの両方合わせて28万人のフォロワーがいる。彼女が取り上げる話題はフェミニズム、一般市民の勇気、人種差別や多様化社会などについてだ。

ダイレクトで送られてくるひどいコメントと彼女のやりとりを公開処刑にさらしたり、コメントを送りつけてきた脅迫者の家族や友人をSNS上で探してその人達に内容を暴露するなどの手段も使って、ネット上の悪意や異常言動に対抗している。

2017年からはタブロイド紙「アフトンブラーデット」でコラムも執筆する彼女は、ネット上でも実生活でも、来る日も来る日も恐ろしいほどの悪意にさらされている。

知名度が上がり彼女の活動が知られれば知られるほど状況はひどくなり、今では一人では気軽に外出もままならないほどになってしまった。ダンス番組への出演でさらに悪化した脅迫行為を警察に通報しても、新しい脅迫者は次から次へとやってくる。

男女平等の国、スウェーデン?

「スウェーデンは世界で一番男女平等な国だとよく言われますよね。では、皆さんに質問。夜道を一人で歩く時、いつもやってることは? まず男性から答えて」

講演会では次々に私たちに気づきを促す質問をするクラーソン。この彼女からの問いかけに男性の参加者からの返事はない。

「では女性はどうでしょう? なにかいつもやってることはある?」

すると会場からは「鍵を(武器として使えるよう)握りしめている」、「暗い道はさける」、「後ろにだれかいないか常に確認する」、「携帯電話で話しているふりをする」、「すぐにだれかに電話できるようにスマホに手をかけてる」など実に多くの声があがった。

「ありがとう、たくさんあるよね。これでも私たちは男女同じ条件で暮らしているって言えるのかしら? いえないでしょう? こんな簡単なことでもこれだけ違うのに。」

また次に畳み掛けるように「スウェーデンでどれくらいレイプが起こっているか知ってる? 私が話しはじめてからだけでももう全国で4件も起こってる。この瞬間にもまた1件!」と話すなど 、人気のスピーカーだけありクラーソンは数字を使った話し方がとても上手だ。

みんなが少しづつ勇気をだして。「気まずい雰囲気を恐れない」

状況を変えていくには、ひとりひとりが勇気をもって社会として容認できないことにNOということが大切。でも急に大きなことを始めようとしても難しいので、日常生活の小さな差別や性的冗談から始めていくことが大事だとリネアは力説する。

男の子が女の子の胸の大きさに関してつまらない冗談をいったり、クリスマスに会ったおばあちゃんが移民に対して差別的なコメントをしたりとした場面に出くわすことはあるよね。でも大した悪意や差別じゃないし、一瞬顔がひきつっても、何もいわないでやり過ごすこほうが簡単。指摘しても場がしらけるだけだしね。

でも、そこでこそ、ちょっと勇気をもって声を上げてほしい。気まずい雰囲気になることを恐れないで。

小さなことで声を上げることができなければ、大きなことに反応するのはもっと難しいと覚えておいて。目の前でなにかひどいことが起こっても止めにはいったりせず、スマホで撮影してそれをシェアするだけの人になってしまう。 

スマートなユーモアは最強の武器

リネア・クラーソンに感服するのは、その勇気と共にいつも忘れないユーモアのセンス。ひどいコメントやメッセージを受け取り続けてもSNSでの活動をやめてしまうどころか常にユーモアで切り返そうとしている。

彼女の最近のツイッターには、こんなスマートな切り返しがアップされていた。

見知らぬ男性「”みんな互いに優しくなろう”って言うたびに、お前に死が一歩ずつ近づいているってことを覚えとけ。今日はここまでだが、俺たちは間もなく会う予感がするよ」

リネア「あら、あなたは勘違いしてる。優しい男っていうのは弱虫やビビリのことじゃない。ともかく、あなたなんか全然こわくないし、書いてくることも内容ゼロね。そうね、あなたなんか歯の間にオレンジの薄皮でも挟まって一生取れないことを祈ってる。出会う予感はまったしない。だって、実態はものすごく弱虫な人でしょ」

クラーソンはあるインタビューで「ユーモアは心が砕けてしまわないよう自ら編み出した心の防衛手段」だと答えていた。次々に襲いかかるあまりの悪意に恐ろしくて眠れないこともあるし、すべて真剣に受け止めていればとてもじゃないけど自分が壊れてしまうだろう。

そこをユーモアで、攻撃するものとされるものの立場を逆転し、攻撃してくる相手をおバカちゃんにしたてて野球のバットで打ち返すような痛快さが彼女にはある。

政治家になることに興味はなく、あくまでも私たち一人ひとりの行動に変革を与える活動を続けていきたいと話すリネア・クラーソン。ネットの闇に巣食う憎悪や脅しに屈せずに進む彼女は本当に力強くかっこいい。 

辛い状況はユーモアで! 私もその部分だけでも見習うことにします!

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【追記・2019年8月20日】

同じくネット上のヘイトと戦うスウェーデンの#Jagärhärのすばらしい活動を紹介したこちらの記事もぜひどうぞ!

www.huffingtonpost.jp

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