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オンラインカジノが支えるスウェーデンのメディア swelog weekend

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Ninja Casinoのサイト。キャッチコピーは「手数料なしで5分で賞金が手に入る」
オンラインカジノの広告ばかり

TVをみているとすべてのスウェーデン人がギャンブル中毒ではないかと疑ってしまうほど、大量に流されるのがオンラインカジノの広告だ。街中のディスプレイ広告でもギャンブル関係のものは大変多い。

調査会社のカンター・シーフォが取りまとめた数字によると、2018年のスウェーデンのトップ20の広告主のうち6社がオンラインカジノやギャンブル関連の企業だ。((下記リストで太字のもの。カッコ内の順位は2017年のもの。リスト参照元

1. (1) Ica / 1,06 miljarder (スーパー)
2. (9) Kindred group / 985 miljoner 
3. (2) Procter & Gamble / 678 miljoner(消費財)
4. (3) Coop / 666 miljoner(スーパー)
5. (5) Mio / 643 miljoner (家具)
6. (7) Svenska spel / 562 miljoner
7. (4) Elgiganten / 513 miljoner(家電小売)
8. (20) Telia / 458 miljoner (通信)
9. (16) Volvo / 402 miljoner(車)
10. (10) Glaxosmithkline / 384 miljoner(製薬)
11. (6) Arla / 376 miljoner(食品)
12. (11) Willys / 375 miljoner(スーパー)
13. (14) Ikea / 374 miljoner(家具)
14. (17) Tre / 365 miljoner(通信)
15. (8) Volkswagen / 363 miljoner(車)
16. (新) Snabbare / 357 miljoner
17. (新) Global gaming Malta / 348 miljoner 
18. (15) Hallon / 335 miljoner(通信)
19. ATG / 327 miljoner
20. (19) Leovegas 322 miljoner 

ランキング2位のキンドレッド・グループはUnibetやMaria Casinoなど多くのオンラインカジノのブランドを所有するギャンブル特化総合企業である。これでもか、と流されていた広告はもうみたくない人も多いのでは?

キンドレッドは実に1年で日本円で120億円以上を広告費として使う 。スウェーデンに向けて事業を行うが、企業登記は今もマルタにある会社である。

ギャンブル事業の規制緩和

さて、2019年から賭博規制法が改正された。*1

スウェーデンの賭博事業は去年までは国内の独占ライセンスを受けたSvenska Spel(Lotto、Triss、カジノ経営など)とATG(競馬。今年からオンラインカジノやスポーツ賭博も運営)が公共事業として運営しており、日本の宝くじのように賞金も無税だ。

但しこれまでもキンドレッドのような「非スウェーデン企業」がスウェーデン市場に向けてビジネスを行うことは問題なかったので、このような企業のギャンブル広告は以前からスウェーデンのテレビでも多く流されていた。

今回の規制変更の主な点は、スウェーデンに向けてギャンブルを行う企業は登録制となり事業ライセンスが必要になったことにある。変更したのは年頭からだが、登録企業数は早くも70社にせまる勢いとなっている。また同規制改正で同時に18%の賭博益税が導入されることになった。

SVT ユーロビジョン・ソング・コンテスト問題

うんざりするような広告量の他にもオンラインカジノ広告を巡るスキャンダルはある。まずはユーロビジョン・ソング・コンテストに関わるスポンサー広告問題

スウェーデンの公共放送であるSVTはコマーシャルを流さないが、オリンピックやワールドカップなどの大きなスポーツ大会など限られた番組にはスポンサーをつけることができる。

スポーツ大会と並んで多くの視聴者を引きつけるユーロビジョン・ソング・コンテストが、今年はMaria Casinoをスポンサーとしたことで視聴者から大きな非難の声があがった。ユーロビジョン・ソング・コンテストは小中学生とその家族に人気の番組だが、Maria Casinoは18歳以上を対象とするものだからである。(ちょっとみたところでは、Maria Casioはこれまでギャンブルをしていなかった女性ユーザーの拡大を狙っているような印象をうける)。

そもそもギャンブルを推奨するようなスポンサーをつけるなど、公共報道機関のモラルはどうなっているのだ! と怒りの声は収まらなかった。

SVTは批判を受けてMaria Casinoのスポンサードは今年限りとし、将来的にもギャンプル関連企業からのスポンサードは受けないと決定した。但し、これはSVTの自主規制で、SVTがオンラインカジノからスポンサードを受けることは現時点では法的には問題ない(現に今も大々的ににMaria Casinoのロゴが番組や会場で使用されている)。

www.svt.se

ギャンブルをやめたい人にも広告

増え続ける一方、手軽になる一方のオンライカジノの中毒になってしまった人は、Spelpaus.seというサイトに登録することで、自らをギャンブルから締め出すことができ、現在約2万人ほどが登録している。 

にも関わらず、これらの登録者もログインができるオンラインカジノのサイトがあったり、広告を送りつけたりする悪質なサイトもあるようだ。オンラインカジノを運営する企業でつくる団体が、今後業界の倫理を強化するとコメントしている。

Ninja Casinoと適正広告量問題

一方で、法に触れると訴えられたのはNinja Casinoである。*2

広告は「適度」であるべきというのが、現在ある唯一の基準だが、Ninja Casinoの「儲けは5分であなたの口座へ」「今すぐ勝負」などをコピーを使った大量の広告が「適度な」広告の範囲を超えているとKO・消費者オンブズマンが訴えている。

先週の木曜日には、アルダラン・シェカラビ市民担当大臣がアグレッシブな広告をやめるようにオンラインカジノ企業を集めて要請を行った。3月末までに現状が改善されない場合は、広告に法的な規制を加えることになると、期限中に状況を改善することを要請している。

ギャンブル運営企業側からも、今の大人すぎる(?)あいまいな基準ではなく、国からはっきりとした見解を示してもらったほうがやりやすいという声も出ている。

オンラインカジノが支えるスウェーデンのメディア

 ギャンブルに興味のある人は射幸心が煽られ、ない人はうんざりしているオンラインカジノの広告、いっその事全部やめてくれないかと思うけど、民放テレビやラジオ、数多くののウェブサイトもギャンブルの広告なしでは成り立たないような、スウェーデンの今日この頃である。

「マルタではなくスウェーデンの法に従うべき」ギャンブル提供企業との緊急会議の後で大臣がコメント (SVT Nyheter)

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