(昨日noteに投稿したものと同じ内容です)
- スウェーデン発のオート麦ミルクは牛乳を駆逐(したい)
- 「牛乳なんてやめろ!」で農家の怒りを買う
- 「世界のあり方を変えるには突き抜けた行動だ必要」
- 牛乳の反撃
- 牛乳は生き残るだろうがポジショニングが変わる
スウェーデン発のオート麦ミルクは牛乳を駆逐(したい)
オートリー(Oatly)はスウェーデン発のオート麦を原料とする人気の植物性ミルクのブランドだ。酪農と肉牛の環境への負荷が議論になっている今、オートミルクの人気はスウェーデンだけでなくアメリカやイギリスでも高い。食べ物を植物ベースで取りたい人や乳糖アレルギーの人には欠かせない、日本の豆乳の位置付けに近い飲み物だ。
オートリーはもともと牛乳アレルギーや乳糖不耐症の人のためにルンド大学の研究者が国内産穀物を使って開発したミルク代替品である。1990年代に開発され豆乳と一緒に細々と売られていたが、2012年に新しくオートリーのCEOとなったトニ・ペーテルソンが製品のポジショニングを大きく変更し、気候危機問題の議論の成熟化を背景に牛乳の環境への問題点を指摘するアグレッシブなアンチ牛乳広告キャンペーンを展開し物議を醸しながら成長を続けてきた。
「牛乳なんてやめろ!」で農家の怒りを買う
そしてこの9月に始まったのが「牛乳なんてやめろ!(Spola Mjölken!)」キャンペーン。ストックホルム中央駅もハイジャックして多くの通勤客を驚かせたこのキャンペーンは、同時にスウェーデン農家の怒りも買った。
.@oatly brought its challenger spirit to life once again with the 'Ditch the Milk' campaign, currently on display at Stockholm Central Station. Read more about Oatly's brand strategy in our latest publication Overthrow II at . overthrow2.com#LiveMoreChallenger
しかも怒っているのは酪農農家だけではなくオート麦農家の中にもオートリーとは取引をしないとボイコットする人達がでてきた。
日本では「稲作」が日本の原風景とされるように、スウェーデンでは畜産農家がその役割を背負っている。町からすこし離れるとのんびりと草をはむ牛もすぐ出会えるのがスウェーデン。1960年代から80年代に学校を通じたミルクのマーケティングキャンペーンも功を奏し、牛と牛乳はスウェーデン人の心とお腹に特別な位置を占めている。
しかし近年は牛を育てるための飼料の問題(飼料大豆耕作のためにアマゾンの森林の破壊が進む)や、牛のオナラのメタンガス問題など、畜産業の気候問題への影響が大きなニュースになることが増えてきた。今回のオートリーの「牛乳なんてやめろ!」キャンペーンも「牛乳を植物ベースのミルクに変えるだけで温室効果ガス効果を75%削減できる」がメインのメッセージだ。
オートリーのメッセージは話を単純化しすぎていると批判も大学の研究者はじめ多く寄せられており、また酪農を「やめてしまえ!」と敬意を感じられない表現でなじったことでオートリーは多くの農家の支持を失った。生態系の多様性確保のために酪農は急激に減らすべきではない、という考え方はスウェーデン自然保護協会も支持している。
「世界のあり方を変えるには突き抜けた行動だ必要」
しかしオートリー側は「世界のあり方を変えるには、突き抜けた行動が必要」とキャンペーンの内容自体を変更する予定はない。「すべての動物性食料を排除せよといっているわけではないが、植物ベースの食べ物に移行していく必要があるのはあきらかだ。その変革を起こすためにははっきりとした物言いが必要だ」とオートリーの広告キャンペーンの責任者であるアーティン・リンクヴィストは説明する。このあたりの論旨は、今時の人となっている環境活動家グレタ・トゥーンベリを彷彿とさせるところがある。
牛乳の反撃
前述の通り、オートリーのアグレッシブなアンチ牛乳広告は今に始まったことではない。受けて立つ牛乳側も「アンチ・オートリー」広告キャンペーンを展開している。
環境問題論点では勝ち目のない牛乳が勝負に使うのは「味」だ。スウェーデン乳製品最大手のアルラ(Arla)が展開したのが「ミルクの味はミルクだけ」広告キャンペーン。
最近はどこのカフェでも牛乳と並んでオートミルクが置かれているが、広告はその状況をトコトンからかったものになっている。。牛乳はスウェーデン語で「ミョルク」で、その偽物の「ブロルク」「ピョルク」「トョルク」を登場させて「ミルクの味はミルクだけ」と締めくくる。下の広告ではひと目でオートリーとわかるPRボーイも登場して「おいしくない」とけなされる。
(アウラの動画広告「ブロルクの試飲はいかが?」)
仁義なきミルク抗争が激しくなる中、スウェーデンらしい戦い方も目につく。先週は人気の動画ネットニュース番組が両社の担当者を一緒にスタジオに呼び、お互いの主張するところを自由に話対決してもらっていた。お互いに一歩も譲らず熱くもなりすぎず正々堂々と思うところを語っていた。
(動画リンク・アフトンブラデーットニュースでの両社の言論戦)
牛乳は生き残るだろうがポジショニングが変わる
オートリーはまたこんなメッセージの動画広告も作っている。「少し前を思い出してください、車のシートベルトもせず、タバコはフィルターもなしに吸っていた。よく考えもしないで牛乳も飲んでいたなんて。知識の欠如はなんと恐ろしい」。
オートリーはこの一連の行き過ぎた(?)「牛乳なんてやめろ!」キャンペーンで、今ブランドの支持率を落としているが、長い目で見るとこれから先牛乳はおそらくスウェーデン社会で占める位置を変えていくはずだ。すでにスウェーデンで牛乳の消費量は大きく減っており1995年の1000万トンから2017年には758万トンとなっている。
牛乳のキャンペーンが「味」で勝負しているのをみると、牛乳はこの先「本」と同じようなポジションに立つのかもしれないと思えてきた。大きな流れとしては数は減っていくがその価値を心から愛する熱烈なファンも決してなくならないだろう。
未来のスウェーデンの牛乳は、国内のオーガニックな酪農家が絞るプレミアム価格のちょっと高級なものになるはずだ。「今日はいいことあったから牛乳で乾杯!」する未来が待っているのかもしれない。