WASPとは、スウェーデンをAI技術で世界のトップにしようと、これから2029年までに55億スウェーデンクローナ(約635億円)を投入して行われる国家的規模のプロジェクト。ただし、その財源は国ではなく、スウェーデン一の大富豪ヴァレンベリ家だ。
(WASP = Wallenberg AI, Autonomous Systems and Software Program)
謙虚を美徳とするスウェーデンの富豪らしく、ニュース紙面を自分たち自身が飾るような派手な振る舞いはしないが、ヴァレンベリ財団はヨーロッパでも最大クラスの各種研究への寄付を行っている。直近の5年間だけでも100億クローナ(約1160億円)を大学などの研修機関に寄付している。
このブログでもこの富豪一族を一度だけ取り上げたことがあり、それはビル・ゲイツが『ファクトフルネス』をアメリカの大学生に無料で配布した時に、スウェーデンではヴァレンベリ家がスウェーデンの高校生に贈ったという内容だった。
さて、WASPはこれからのすべての産業界の鍵を握るAIに関する研究にフォーカスを絞ったもので、400のプロジェクトからなり、既にスウェーデンの名だたる大学には30名を超える世界トップレベルの教授や研究者がリクルートされている。今後その集積された知能の元で、400名以上のAI博士が育っていく計画となっている。
WASPはスウェーデンの大学間だけではなく、アメリカのスタンフォードやバークレー、シンガポールのNUTといった大学との共同研究も決まっており、さらにはスウェーデンの得意芸である産学共同ですすめる体制も整えられている。プロジェクトにはスウェーデンの産業界を代表するボルボやエクリソン、それにABBなどの40以上の企業も参加する。
スウェーデン政府はこれまでAIへの投資が少ないことから、将来的な国家競争力を落とすと厳しい批判にさらされてきたが、ここにきてAIに数十億クローナレベルの国家予算を投入する予定であることが噂されている。ただし詳細はスウェーデン公共放送のSVTもつかめていない。ただ現在でも国立研究機関であるRISEの全体で2800人いる研究員のうち60名がAI関係のプロジェクトに関わっている。
これから「スウェーデンのWASP」がどれくらい世界の中で存在感を出していくことができるのか、楽しみにしたいところではある。日本のAIの研究者の方たちもスウェーデンに来てみるのはいかがですか?