(2018年12月13日投稿)
- 世界で一番早く、報道の自由を憲法で規定したスウェーデン
- 報道の自由度ランキング世界2位
- 出版報道機関監視システム
- メディアのコングロマリット化
- スウェーデンの出版報道補助金について
- スウェーデン人とニュースメディア
- メディアに関する情報源
- メディア・報道内容の検証
- 参考文献
世界で一番早く、報道の自由を憲法で規定したスウェーデン
透明性の高い社会を目指すスウェーデンは、憲法で報道と表現の自由を規定している。早くも1766年、世界で一番早く報道の自由を憲法に盛り込んだのがスウェーデンだ。
この規定により公的機関はほぼすべての文書を公開する必要があり、また報道機関を含む市民は自由にその情報にアクセスすることができる。
報道の自由度ランキング世界2位
パリに本拠地を置く「国境なき記者団」の2018年度・報道の自由度ランキングでは、スウェーデンはノルウェーに続き世界第2位だ。ジャーナリストが自由に情報を検索することが可能でその内容を制限なく発表できることは権力者が暴走する危険に対抗する手段として不可欠だ。
またスウェーデンでは、ジャーナリストはたとえ公的機関からの要請であっても取材の情報源を公開する必要はない。逆に公的機関は要請があれば、国家のセキュリティに関わることなど特別に重大な機に関わるものを除いて、求められた情報をすべて公開しなければならない。
ちなみに国境なき記者団のランキングで日本は67位。この順位は政府の開示する情報が限定的であることや記者クラブ制度の閉鎖性を反映している。
出版報道機関監視システム
スウェーデンの出版報道には、出版報道機関オンブズマン(PO)と業界団体であるスウェーデン出版報道評議会(PON)により報道内容が倫理性を監視するシステムがある。
この監視システムでは犯罪「容疑者」の個人特定情報非公開の原則が守られているかなどが取り上げられ、個別の報道が報道業界全体で共有している倫理基盤に沿ったものかどうかが議論される。
報道により不利益を被ったと個人が思った場合は、誰でもオンブズマンに申請することが可能だ。オンブズマンが内容を検討した結果問題があると判定されたものはPONへ持ち込まれ、取扱いの適切であったかどうかが判定される。
権力を監視する報道機関が報道機関でしか持ちえない別の権力を悪用していないか、さらに監視している構造だ。
最近のPONが扱っている訴状例 Senaste fällningar | PO
メディアのコングロマリット化
スウェーデンでは新聞は伝統的に政党、政治的な思想を背景として出版されていた。現在では新聞はメディアとしての生き残りをかけて企業売買を繰り返した結果、限られた数のメディアグループが様々なジャンルのメディアを多数所有する形になっている。
国民から高い信頼と人気を誇る公共のテレビ、ラジオ放送を除くと主なメディアグループには以下がある。
ボニエ系列 (Bonnier)
書籍・雑誌出版、映画(SF Studio)、新聞、テレビなどスウェーデンの報道やエンタメの領域で多岐に渡り絶大な影響力をもつメディアグループ。ボニエ家による会社の歴史は1800年代初めまで遡る。
現在所有している主なメディアは以下の通り。
- テレビ TV4グループ(C MORE, MTV)
- 新聞 ダーゲンス・ニュヘテル、エキスプレッセン、ダーゲンス・インダストリ、スッドスヴェンスカンなど多数。傘下の新聞を合計すると日刊紙の約4分の1のシェアを占める。【追記】2019年2月8日にミットメディアの地方紙28紙を買収することを発表した。
- 雑誌 スウェーデンの雑誌出版社として最大。発行部数が多い雑誌にÅret Runtなどがある。その他のスウェーデンにおける有力雑誌出版社は、デンマーク資本のAller社とEgmont社。
- Eコマース Adlibris スウェーデンの書籍ネット販売大手。アマゾンを目指しているとの報道あり
シブステッド系列 (Schibsted)
ノルウェーで最大の日刊紙を持つ同国を代表的するメディア企業。スウェーデンでも存在感を増している。
- 新聞 スヴェンスカ・ダーグブラーデット、アフトンブラーデット
- 人気サイト・アプリ運営 Blocket (フリマ)、Prisjakt (価格比較)、TV.nu (TV番組、動画ストリーミング配信まとめサイト)。
スタンペン系列 (Stampen)
- 新聞 ヨーテボリを代表する新聞ヨーテボリス・ポステンや、スウェーデン西海岸や中部地方のローカル新聞を多数所有。
MTG系列 (Modern Times Group)
スウェーデンを代表する投資会社シネヴィック (Kinnevik) 所有。
- フリーペーパー スウェーデンで最大、都市部で150万部の発行部数を誇るメトロを創刊。現在メトロは売却され、Custos ABが所有している。【追記】2019年メトロは廃刊へ。
- テレビ TV3、TV6、TV8、TV10、Viasat、他多数
- ラジオ Rix FM他多数
- eスポーツ Dreamhack
ミットメディア系列 (Mittmedia) → 2019年2月8日 ボニエが買収を発表
- 新聞 スウェーデン最北部ノールランド地方南部、及びダーラナ地方の数多くのローカル紙を所有する
ヨータメディア系列 (Gota Media)
- 新聞 ブレーキンゲ、カルマー、クロノベリ地方のローカル紙を所有。2011年にボニエからクリファンスタ、イスタ、トルレボリの各ローカル紙も買収した。
スウェーデンの出版報道補助金について
1950年代各地方で新聞の競合が激しくなり、広告収入だけでは経営が成り立たなくなった主に社会民主主義系列の新聞(当時)を救済するために導入された 。
その後1990年代には新聞の経営統合の嵐が吹き荒れ、保守、自由党系の新聞が社民党系の新聞を買収するケースが相次ぎ、現在の出版報道補助金の役割はあいまいなものになっている。
傘下の新聞合計で毎年5000万クローナ(約6億3千万円)の補助金を獲得しているミットメディアグループは、多数の競合関係にある新聞を所有しておりその両方が国の補助金で互いの競争力を争うという混乱した状況だ。国全体で2017年も年5億クローナ(約63億円)が出版報道補助金として各新聞メディアに分配された。
この補助金はスヴェンスカ・ダーグブラーデットのような大手新聞が補助金の多くを受け取っていることや、また今日の多様化社会では新聞の社説の持つ政治的意味が以前と比べて弱まっていることなどからその存在意義が度々大きな議論の対象となってきた。
メディアと世論形成の関係が補助金設立当時から大きく変化してきていることから、EUも新聞のみを対象としたスウェーデンの出版報道補助金の正当性に疑問を投げかけている。
Presstöd- Myndigheten för press, radio och tv
スウェーデン人とニュースメディア
以下のグラフはオックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所 デジタルニュース・レポート2018 スウェーデンより引用。
【先週どのメディア(テレビ、ラジオ、印刷媒体)でニュースをみたか?】
【先週どのオンラインメディアでニュースをみたか?】
【どのメディアでニュースをみたか? 時系列】
【オンラインニュースメディアで課金している人の割合 国別、時系列】
メディアに関する情報源
管轄官庁・統計
Myndigheten för press, radio och tv
Faktasamlingen Svenska mediehus | TU
Dagspress | Fakta om dagspress - en tjänst från TU
KIA-index - den officiella mätvalutan för svenska webbplatser
メディア業界ニュース
2018年7月から下記の3つの媒体のすべてがボニエ傘下となった。
マーケティング、コミュニケーション、デザイン、広告クリエイティブ業界の専門誌。創刊は1950年。1989年にボニエが買収。現在、雑誌としては月1回発行。
Dagens Media - Om och för mediebranschen
1998年設立の広告主のマーケティング担当者向けのメディア業界情報誌。2018年7月にボニエが買収。現在はウェブ版とメルマガを中心に運営中。
報道・出版業界向け専門誌。主にメディアに関する政治、立法、倫理に関わる問題を扱う。2017年からDagens Mediaの傘下に。
メディア・報道内容の検証
『Fönstermot medievärlden(メディアへの窓)』
SVT提供。メディアの将来を見据えた、直近一週間のメディアの動向をスタジオにジャーナリストや有識者を招いてディスカッションする番組。
スウェーデン国営ラジオ放送P1の番組。ポッドキャストでも提供。メディア、報道姿勢などに関するニュース、スキャンダルを取り上げる。P1が様々なメディアの担当者にインタビューを挑む番組。報道とは?メディアの役割とは?に興味にある人におすすめ。
参考文献
- Weibull, Badbring, Ohlsson (2018), Det svenska medielandskapet: traditionella och sociala medier i samspel och konkurrents, Liber
- Björn Häger (2014), Reporter: en grundbok i journalistik, andra upplagan, Studentlitteratur
- Martin Schori (2016), Online Only: allt du behöver veta för att bli morgondagens journalist, Carlsson