気候危機による身の危険というと、この夏のドイツやベルギーを襲った大雨や浸水のことなどがすぐに頭に浮かぶが、スウェーデンに住む私たちにも、気候が温暖化したことにより、もっと身近なところで危険が身に迫ってきている。
それは、巨大なマダニや毒を持った幼虫、またこれまでにはこの国では確認されていなかった感染症などだ。(マダニの話はこちらでも)
この記事でも書いたように、これまでのスウェーデンでは、厳しい冬が多くの害虫やウイルスを殺し、さまざまな病気から私たちを守ってくれていた。しかし温暖化によりこの状況は大きく変わりつつあり、また南ヨーロッパでの気候の温暖化で、植物や昆虫、動物が冷涼な気候を求めて北上を続けている。
例えば熱帯性のウエストナイル熱にスウェーデンで人や動物が感染するのは時間の問題だと考えられている。2019年にはスウェーデンのエーランド島で、ウエストナイル熱感染症に関わるウイルスを保有するトリが発見されたからだ。このウイルスは人や馬に感染し、重度の神経障害を引き起こす。
それ以外にも人間に深刻なアレルギーを引き起こす可能性のある地中海からの蛾がゴットランド島で見つかったり、幼虫が犬を殺すほどの毒性を持つ昆虫がスウェーデン中部で発見されたりしている。
現在スウェーデンの国境は銃や麻薬など不法密輸に対する取り締まりを強化しているが、このような形の健康への新たな脅威に対抗するしっかりした警備体制は確立できていない。この状態に警鐘を鳴らしているのは国立獣医学研究所(SVA)だ。
隣国デンマークではすでに「NordRisk」というプロジェクトがスタートしており、この新しい脅威をマッピングし、予測モデルの開発に投資を始めている。デンマークが特に監視しているのはドイツとの国境だ。
SVAはスウェーデンも、このような動物学者、猟師、生態学者、気象学者、医師、獣医師が連携して、例えば新しい昆虫が定着した場合、どのような影響がでるのか、監視し、予測、対処することが非常に重要になってくるとこれまでも何度も伝えていたのに対策が取られてこなかったことに苛立っている。
この晩秋には「気候適応に関する国家専門家会議」が最終報告書を政府に提出することになっており、そこではデンマークの例に倣った国境監視が推奨される予定だ、とこの記事はまとめているが、監視するにはウイルスや昆虫はあまりにも小さすぎないか。遅かれ早かれウイルスや虫たちは、もっとたくさんやってきて、かつては生存するには寒すぎたこの北の大地に定着していくのだろう。