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『HISTORJÁ』とブリッタ・マラカット・ラッバ

 先週のこの記事で予告編へのリンクを張った『HISTORJÁ』を観てきた。

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”『HISTORJÁ 』というサーミ文化の歴史、そのスウェーデン政府との闘い、そして今は世界的な気候危機によっても脅かされるトナカイの牧畜の闘いに関するドキュメンタリー” と書いたけど、これは正確ではなく、中心にあったのは、その闘いを刺繍で表現することを続けているアーティスト、ブリッタ・マラカット・ラッバさん、その人だった。

映画には『サーミへのステッチ(Stygn för Sápmi)』という副題がつけられている。

ブリッタ・マラカット・ラッバさんの24メートルに及ぶ刺繍作品「HISTORJÁ」は、サーミの歴史と神話、そして彼女の自身や家族が経験してきたことが繊細な刺繍で表現されている。この作品は2017年の「ドクメンタ」で展示され、彼女の国際的な名声を高めた。

そのドクメンタの展示について日本語で書いてる方がいらしたので、作品に関する記述を引用し、リンクを張っておきます(”専門家の見解が読める教養ポータル”ですよ!)。

まったく対照的な作法で失われつつあるサーミの生活文化を表現したのは、スウェーデンで代々トナカイ業に携わる家庭に生まれたマラカット=ラッバだ。彼女は、20mを超える一枚の反物の上にサーミの歴史と文化を繊細な刺繍で織り込めた。そこには、まずは森があったこと、森から狐や熊、トナカイといった動物が生まれたこと、次にサーミ族が現れ、そして人間とトナカイの共同生活がはじまった様子など、サーミの宇宙観がひとつひとつ丁寧に描かれている。反物の奏でる神話の世界を追ってゆくと、政府による抑圧や自決集会といった抵抗の瞬間も登場し、一枚の反の上にサーミの文化史が神話的起源から現代にひきつがれる形で凝縮されている。

無数の断片の中に潜り込みながら――ドクメンタのナラティブ・テクニック/河南瑠莉 - SYNODOS

このドキュメンタリーの中では、1970年代にブリッタ・マラカット・ラッパさんがノルウェーでのアルタ川でのダム建設工事への抗議行動へ参加した時の映像と、その刺繍での表現がでてくる。

刺繍では遠くからやってきたカラスの群れが次第に制服姿の警官に姿を変え、抗議運動に参加しているサーミの人たちを排除しようとする様子が表現される。ブリッタ・マラカット・ラッバさんは、様々な動物が登場して、政治的な文脈を語るのはサーミ神話の形式だと説明する。

ひと針ひと針、形を作っていく彼女の表現はまさに「作品」という名にふさわしい。

映画には、気候危機でこの先将来性があるのかどうかわからないトナカイの放牧と、それには見切りをつけて、大学で勉強して普通の仕事という選択肢に悩む彼女の息子も出てくるのだが、この彼が、とてもとてもゆっくり話す。本来、人はこういうふうに一言、一言ゆっくり話していたのではないだろうか? と考えずにはいられない。それはまるでブリッタさんがひと針ひと針、物語を刺繍で紡いでいくのと対になっているようだった。

映画自体も、これまでも『森(Skogen)』などを世に出してきたトーマス・ジャクソン監督が、サーミとトナカイの四季を、時間をかけて形にした素晴らしい作品ですので、機会のある方はぜひ。これ、日本でも上映されるといいなぁ。刺繍の作品もぜひ見てみたいところだ。

他にも彼女と彼女の作品に関する短いドキュメンタリーをいくつかネット上で見ることができるので、こちらのリンクも貼っておきます。

www.svtplay.se

www.youtube.com

www.youtube.com

アーティストのブリッタ・マラカット・ラッバの24メートルの刺繍作品がドキュメンタリー映画に(SVT)

© Hiromi Blomberg 2022