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負け組をつくったスウェーデンの学校改革の失敗

1990年代の終わりに行われた学校制度の改革が、生徒個人にも社会全体にも悪い結果をもたらしていることは研究などから明らかなのに、どの政治家もその問題を取り上げようとしない。

25年以上も前から毎年問題になっているのは、日本の小中学校に相当するスウェーデンの基礎学校で成績表と「落第点」が導入されたこと。科目のうちの一つ以上で落第点のまま基礎学校を卒業する子どもは毎年1万6000人にも及び、これは全体の15%に相当する(EUの平均は4〜5%)。

基礎学校を落第点で卒業した人の間では、失業や病気になるリスクも高まり、自殺や薬物使用で亡くなる確率も高くなっている。

義務教育でこれほど多くの「落第者」と出すというのはスウェーデン学校政策の大きな失敗であり、個人と社会に双方に大きな影響を及ぼしていることを、学校庁の専門家、カロリンスカ研究所の社会医学の研究者、ヨーテボリ大学の評価制度の研究者たちが今回SVTがまとめた番組で語っている。

基礎学校での落第点を含めた成績表の導入は、子どもたちに学習への意欲をもたせるために導入されたが、それ以前は望むほとんどの生徒が高等学校へ入学できていたのに「落伍者」が増え、子どもたちは余裕をなくしたストレスの多い学校生活を送ることにもなった。

研究者の1人は、子どもは失敗することを恐れず何度も挑戦する機会を与えられるべきで、基礎学校卒業という人生の早い段階で、失敗者というレッテルを貼られるべきではないと話す。

しかし成績表の廃止を提案すると、スウェーデンの学校の質を落とすことを支持するのかと批判されることを恐れて、どの政党もこの問題にまともに取り組んでいない。できる生徒にはなんの問題もない仕組みでもあるからだ。

ちょうどこの週末日本で公開が始まった映画『教育と愛国』を監督された斉加尚代さんのインタビュー番組をいくつか聞いていたのだけれど、ここでも「勝ち組をつくることを目指す学校教育」の問題が指摘されていた。

斉加尚代さんはこれまで大阪の毎日放送で骨のあるドキュメンタリー番組を作ってきているが、その放映は日曜日の夜中の0時50分からという誰も見ない時間帯だと話していた。

SVTのこの番組は、今日の夜8時から地上波で放送されるので、多くの人が見て、議論が巻き上がればいいなと思う。ストリーミングでも8時以降はスウェーデン以外の国からでも視聴可能なのでリンクを貼っておきます。

www.svtplay.se

スウェーデンの学校制度の研究者「落第の成績をなくさなければいけない」(SVT)

© Hiromi Blomberg 2023