9月の国選選挙を前に、さまざまな特集が組まれるようになってきたが、SVTが各政党により異なる文化政策で、各地方自治体にどのような変化が出てきているかを取材している。
取り上げる地方自治体は、中道右派の穏健党が最大政党で裕福な家庭の多いストックホルム郊外のテービュー(Täby)、中道左派で国政では与党の社会民主党が最大政党のダーラナ地方の街ボーレンゲ(Borlänge)、それにスウェーデン最南端に位置し、右派ポピュリズム政党のスウェーデン民主党が最大政党のトレレボリ(Trelleborg)だ。
テービューでは、文化は「独立し自由であるべき」で「子どもと若者への文化への権利が優先されるべき」との旗印のもと、コミューンによる個人楽器指導を行う音楽教室が閉鎖され、6つの民間が経営する音楽教室へと取って代わった(オーケストラなどのグループでのレッスンは現在もコミューンが行っている)。
テービューの住民の多くはまったく問題を感じていないようだが、不利益を被る子どもたちもいる。民間経営の学校では効率を重視するため、提供されるクラスはギターなど、人気のあるものに限定されてしまい、クラッシック音楽や民族音楽などで使われるようなマイナーな楽器に触れることができなくなる。
ヴィオラやニッケルハルパ、ハープなどの個人レッスンはテービューコミューンでは提供されておらず、穏健党の政治家はそのような楽器を習いたい子どもは提携している近隣のコミューンでの教室へ子どもを送迎してあげればいいという。そのような余裕のない家庭はテービューにはいないような発言だ。
デービューで穏健党と対立する社会民主党は、民間の音楽教室では音楽教師としての教育を受けていない人たちが教師として教えていることも問題視している。
いずれの問題もフリースクール、民間経営の小中高学校の問題と同様だ。そこに通っている子どもと親はとても満足しているが、問題なのはその影で切り捨てられていく子どもたちだ。
この改革を推し進めた穏健党の政治家は「これからのコミューンの音楽教室のあり方はこれだ。他の自治体もみんなこのように運営すればよい」とテービューの現在の音楽教室に胸を張るが、一方でマイナー楽器のクラスに関しては他のコミューンやもしくはプライベートの個人レッスンに投げ出す形になっている。どこもテービューのようになってしまったら、これらのレッスンはは誰が引き受けるのか? 個人が自腹を切ればいい、というところに帰着するのだろうか。
SVTは他の2つの地方では、トレレボリが「国家結束のためにスウェーデンの文化遺産のバイキングの要塞復元」に予算投入していることや、ボーレンゲの「すべての人に文化に触れ、文化的創造に参加することを可能にするカルチャーセンターの建設」に関してレポートする予定だという。こちらの内容についても、また見かけたら取り上げようと思います。
スウェーデンに来て、プライベートの個人教室に通わなくても自治体が子どもたちに楽器を教えてくれるなんて、なんて豊かな国なんだと思ったけど、私が感じた当時の豊かさはすべて「経済効率」とは離れたところにあったようですな。