swelog ここだけのスウェーデンのニュース

スウェーデンの気になるニュースを毎日伝えるブログです

「ニレの木の戦い」と2022年の市民的不服従とエコサイド

昨日配信したニュースレターで取り上げた「ストックホルム+50」関連の論評で、50年前の市民的不服従と今日の市民的不服従を比較して取り上げているものがあったので紹介したい。書いているのはダーゲンス・ニュヘテルの文化編集局長ビョーン・ヴィーマンだ。

1972年のストックホルムの国連人間環境会議が開催されたのは、どんな時期だったかといえば世界的にみればベトナム戦争の真っ最中。スウェーデンでも反戦デモが繰り広げられていた時期だったが、スウェーデンの環境問題運動における分岐点となったのが、国連人間環境会議の前年、1971年に起こったストックホルムの「ニレの木の戦い」だ。

ストックホルムの中心地にあるクングストレゴーデン(王様の公園)に商業施設などを含んだ地下鉄駅が建設されることになり、社会民主党主導だったストックホルム市議会は、公園の樹齢100年と言われるニレの木13本を採伐することを許可した。

これに反対する市民運動が展開され、最終的にはストックホルム市側が地下鉄建設計画を大きく変更することになりニレの木の命は守られた。ニレの木は運動の象徴となったが、それまでにもストックホルム市の経済優先の行き過ぎた都市計画への不満がこの「ニレの木の戦い」で爆発した形となった。

この戦いでは真夜中に樹を切り倒そうとした市の職員とそれを警備しようとした警官や警察の騎馬隊によりアクティビストへ暴力がふるわれたりもした。その後アクティビストは木に登って立てこもるなどの行動にもでて、世界でも市民的不服従により環境問題の政治的な決定を覆すことに成功した初めての例だとして大きな注目を集めたが、ヴィーマンが指摘するのは、この運動はアクティビストだけではなく、彼らの思想に共感した保守的なブルジョワ層も巻き込んで成功したという点だ。

現在、保守政党穏健党は環境アクティビストが過激な行動にでた場合の拘束を容易にし、罰金などの罰則をより厳しくしようしていることを指摘するヴィーマンは、同時に彼が希望を見出しているのは、「エコサイド」として政府や企業を裁こうとする動きに、政治家ではなく、企業家などブルジョワ層がより関心をもっているという点だ。

mainichi.jp

1972年の会議で、当時のスウェーデンの首相であったオロフ・パルメがおこなった講演で早くも概念が導入された「エコサイド(自然に対する大規模な犯罪)」は、50年を経て、ようやくハーグの国際刑事裁判所で国家元首などを「自然に対する大規模な犯罪」を行った罪で裁くという具体的な案が検討されるまでになってきた。

ストックホルム+50でも会議前日に、現在の案の提案者の1人の英国弁護士で人権問題活動家のフィリップ・サンズの講演会があったが、この講演会が行われたのは、ストックホルムのトップ法律事務所で、集まった人たちはビジネス系弁護士や産業界の関係者など。ヴィークマンによれば、この国際的な法制度による新しい秩序を求めるサンズの訴えにみんな真剣に耳を傾けていたという。

この新しい法秩序は排出量に関するものだけでなく、排出量に関する「嘘」にも関わり、気候危機は、これからますます具体的な「犯罪」として扱わられることが増えるだろうというのがヴィークマンの結論だ。レターでも取り上げたスウェーデンのオーロラがスウェーデン政府を訴える計画のように、今後ますますアクティビストの市民的不服従が社会に問題を投げかけてくるだろう。

環境問題でも、このように保守的政党とほんものブルジョワ層で意見が異なるように、少し前にレターで取り上げた「金儲け主義スウェーデン」の本でも指摘されていたのが、保守政党はブルジョワ層にできるだけ利益がでるように、できるだけ税金を払わなくてもいいような政策を目指すが、超リッチな保守層ではそのような税制に懐疑的な人もいるという点だ。

swelog.theletter.jp

保守政党は、どのような層のどのような利益のために自分たちの政党があるのかをもう一度よく考えた方がいいようだ。

そして私たちはストックホルムのクングストレゴーデン駅に行ったら、なぜ公園からちょっと離れたところに地味な駅があるのかを考えるといいかもしれない。クングストレゴーデンはその後、1998年に日本から贈られた桜が春に満開になる場所としても有名になった。

******

昨年「ニレの木の戦い」から50年を記念して作られたドキュメンタリーで、この出来事に関わった環境アクティビスト、政治家、そして市民を取り締まることになった警察官などがインタビューに答えている。

www.svtplay.se

ここでは一度政治が決めた決議をこのような市民運動で覆すことが民主主義に与える影響なども言及されている。話を聴いていたら、沖縄の辺野古に思いを馳せずにはいられない。ドキュメンタリーはスウェーデン語字幕だけの提供なのが残念だが、スウェーデン語がOKな方は世界中からアクセスできるので、よければぜひ。

ビョーン・ヴィークマン「現代の保守穏健派層も市民的不服従を支持すべきだ」(ダーゲンス・ニュヘテル)

© Hiromi Blomberg 2022