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(2年間で)7.4%の賃上げに労使合意

工業系の労働組合連合が雇用主側と記録的な7.4%の賃上げに合意した、とニュースで聞いて、インフレが背景にあるのだろうけど、でも7.4%はすごいな、私ももっと賃上げを要求するべきだったかな?と思ったが、よく聞くと7.4%は今後2年間の賃上げについて合意したものだった。

工業系労働組合連合が雇用主側連合と合意に至ったのは、今年は4.1%の賃上げ、来年が3.3%ということで、たしかにそれでも高い数字だし(これまでの交渉で一番高い歴史的な数字)、また2年間に渡る枠組みを決めたというのも珍しい。産業界で働く人たちは来年もちゃんと給与は上がると、安心して働けるのかもしれない。今回の工業系の合同労使協約には450の団体別協約が含まれ、約220万人の労働者にその影響が及ぶ。

しかしこれだけ賃上げされても、鉄鋼労働者組合(IF Metal)の委員長は、インフレ率が高いため、今年は実質賃金は上がらないことを指摘する。またこの7.4%を2年間でならすと、一年当たり3.7%となり、これは組合連合に参加する多くの個々の労働組合が要求していた今年4.4%という賃上げ率にははるかに及ばない。しかし、今年の交渉が始まった昨年秋には、雇用者側は、2%の賃上げと3000クローナ(約3万8000円)の一時金を提案していたので、それでも交渉で両者は大きく歩み寄ったことになる。

ダーゲンス・ニュヘテルの経済コラムニストも、今回の合意は1997年にこの工業界の労働組合が共同で行う賃金協約が始まって以来、25年で初めての実質的な賃金の引き下げを意味すると書いている。喜んでいいのか、嘆くべきなのか。

一方ルンド大学の経済学者は実質賃金は上がらないとしても、これだけの規模でこれだけ額面で賃金があがれば、今のインフレに影響を与えかねないとし、この労使合意はスウェーデン中央銀行の今後の決定に影響を与えかねないことを指摘する。

また、今回の団体協定には最低賃金が1350クローナ(約17500円)引き上げられることも含まれており、月収が2万8211クローナ(約37万円)より低い場合は、合意賃上げ率以上賃金が引き上げられることになる。しかし、人件費がこれだけ上昇すると、今後人員整理やレイオフが必要になる企業もあるだろうとすでに雇用主側が表明しており、賃金の労使間バランスはなかなか難しいものだなと思わされる。

ダーゲンス・ニュヘテルのコラムニストは、スウェーデンには労使協約の強い伝統があり、スウェーデンの労働者はおそらく世界でも一番ストライキをしないとも書いている。2021年にストライキや職場封鎖で失われた労働日数はスウェーデンではわずか11日だが、ノルウェーでは11万6250日、デンマークでは24万3400日だと数字をあげている(いろんな職場での日数とストライキに参加した人の数をかけ合わせたものだろうか?)。これ、フランスだともっと天文学的数字になるのかな?

それにしても今週、毎日新聞で読んだ、もう倒れそうになるくらい働いている保育士の方が1150円の時給をせめて50円あげてほしいといったら「無理よ」と、雇用者に軽く却下されたという話がひどすぎる。時給50円アップは「無理よ」 人気の保育園支えるブラック環境 | 毎日新聞 。日本のブラックな職場にも、団体交渉のパワーをどうすれば武器にしてもらえるだろうか?

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© Hiromi Blomberg 2023