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首相殺人事件、34年分のがっかりと驚き

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スウェーデンで昨日の朝9時半から始まったパルメ首相殺人事件に関する記者会見をみていた人はどれくらいいるのだろう? 

夫は10時から予定されていたビデオ会議が延期されたといっていたし(おそらくこの会見を見たい人があまりにたくさんいたため)、私は自分が主宰した30分の会議を9時半からからでなく10時からの開催にしていた偶然に胸をなでおろした。

34年前に起こった当時現役の首相が公道で銃殺された事件は、警察が初期捜査に失敗し犯人がみつからないまま、かといって特別捜査班は解散することもなく昨日の記者会見まで捜査は延々と続けられていた。これまでに「捜査の捜査」というか、捜査のやり方が正しいかどうかの調査も既に3回入っている。

そして2017年には切れ者の声が高い検察官が新担当として着任し、昨日警察と検察が共同で行った記者会見には「こんどこそ犯人がわかるのではないか」との期待が高まっていた。

しかし会見で発表されたのは「容疑者として通称「スカンディアの男」があげられそうだが、この人物はもう他界しているため捜査を打ち切る」という、かなりの肩透かしで期待はずれの内容だった。

DNAなどの新しい技術でわかったこともなければ、使われた凶器が特定できたわけでもなく、陰謀説も否定され、これまで名前が上がっていたスカンディアの男の名前が発表されたが、はっきりした容疑が固まったというわけでもない。検察官は「仮にスカンディアの男が生きていたとしても、今の状況では起訴できない程度の容疑だ」と話していた。

最近コロナ関連で立て続けに開催されている政府や行政関係者が立ったまま早いテンポで行われるモダンな感じの記者会見と比べると、こちらの会見はかなり昭和な感じの(?)会見で、記者の参加がすべてオンラインで、会見現場には警察と検察の担当者が座っているだけの緊迫感のなさもあり、発表の中身と共に世紀のがっかり会見として多くの人の記憶に残りそうだ。

容疑者である可能性が高いだけで犯人であると決まったわけではないのに、もう死んでいる人の名前を発表したのにも驚いたが(「世間の関心が高いので公表することを決めた」と説明された)、この会見では核心となる内容は肩透かしだったが、関連情報として公開されたことにはかなり驚いたものがあった。

このニュースをそれほどしっかり追っていたわけでもない私がびっくりしたのは以下のようなことだ。

  • パルメ殺人事件の捜査は、JFK暗殺事件の捜査に匹敵するほどの規模で、世界でも一、二を争う大規模の捜査が行われてきたこと
  • これまでに取り調べを受けた人は1万人に及ぶこと
  • 犯人は自分だと公言した人は134人に及び、そのうちの29人は警察に自首したこと
  • 現在に至っても、週に2,3の事件解決につながる情報のタレコミ(?)が警察にあること

 しかし、昨日の会見の内容に納得していない人は多いと思うし、これまでパルメ殺人事件はスウェーデン社会全体のトラウマ、と言われ続けてきたが、昨日の会見の様子自体がまたトラウマになりそうでもある。

昨夜はこの会見を受けて、夜のニュースにはロベーン現首相はじめかなり多くの人へのインタビューが流されていたが、今朝もこれからパルメの長男がニューススタジオにやってくる予定であるなど(昨日は次男がずっとインタビューを受けていた)、しばらくはパルメ関連ニュースがコロナ関連ニュースを圧倒しそうな勢いだ。

ちなみに「スカンディアの男」とは、この男がスウェーデン大手の保険会社Skandiaの社員であることからつけられた呼称だ。これでSkandiaの株価が落ちたりはしないのだろうが、その呼び方やめてほしい、とくらいは思っていそうだな。

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© Hiromi Blomberg 2023