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ソーンと夏至祭

スウェーデンで最も著名な画家の1人、アンデシュ・ソーン。高揚した瞬間を捉えた絵であると共に、とても物悲しい、彼の最も有名な夏至祭の絵は、スウェーデンに興味のある人ならきっとどこかで見にしたことはあるはず。

夏至祭は夏の盛りを祝う日であると共に、この日を境に暗く長い冬への向かっていく日でもあるので、物悲しいのはあたり前かもしれない。ソーン自身、この作品は彼の内面を最もよく表した作品であると言っている。今がたけなわなダンスはもうすぐ終わり、夏の盛りももう過ぎた。

この秋に、ソーンの人生とその時代を扱った新しい本(『Zorn - ett liv, en tid』)が出版されるそうで、作者の寄稿文がシッドスベンスカンに掲載されていた。

作者によると、ソーンは出身地であるスウェーデン人の心のふるさと、モーラに軸足を起きながらも、そして夏至祭に特別なつながりを感じながらも、内面の思索にふけると言うよりも、落ち着きがなくエネルギーに溢れた人で、企業家であり、世界で一番人気の肖像画家だった(アメリカの大統領を始めとした著名人たちのビジュアル広告担当者といった役割か)。ロンドン、パリ、イタリア、シカゴといった世界をめぐる旅と暮らしを続けた、この時代には希有なスウェーデン人だった。

彼の豪快で、大酒飲みで、女放蕩な暮らしは、一般的なスウェーデン人のイメージとはかけ離れていたが、そんなソーンが自身を確かなものとつなぎとめる役目を果たしていたのが、夏至祭だったようだ。

ソーンのこの絵は、実は実際の夏至祭のダンスを写実したものではなく、ソーン夫妻が1896年にモーラにエウフェン王子を招待した際に、地元の人を集めて踊ってもらったシーンを、後日パリのアトリエで描いたものである。踊っているカップルはソーンの別の絵『ワルツ』から持ってこられたようでもある、と分析される。

ソーンは多忙を極め騒乱に満ちた暮らしの中でも、夏至祭にはダーラナに帰り、メイポールが正しくまっすぐに立てられるように指示し、ダンスが終わった後にはいつまでも外のポーチで座っていたという。

ソーンのようなダイナミックな人生を送ってはいない私たちも、今は世界の方が騒乱状態。夏至祭の夜は、夜が明けるまで外で座っていようではないか。

(2021年のストックホルムの国立美術館でのソーンの大回顧展については、こちらのニュースレターでも書いているのでよかったら。女々しい発明 | 北欧通信 )

アンデシュ・ソーンは毎日が夏至祭の夜であるかのように人生を送った(シッドスベンスカン)

© Hiromi Blomberg 2023