swelog ニュースで語るスウェーデン

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問題だらけのSBB

少し前にHeimstadenについて書いたので、SBBについても取り上げておく。

Heimstadenはスウェーデン、ドイツ、デンマーク、チェコ、オランダを中心に、合計約16万戸のアパートを所有する不動産会社。株主は創業者でもあるノルウェーの不動産王のIvar Tollefsen。Heimstadenはドキュメンタリー映画『Push』に描かれているやりくちで、古くなったアパートを改修し、家賃を大幅に上げるというビジネスモデルで儲けてきた。参考・
スウェーデン発ドキュメンタリー『PUSH』で学ぶ住宅問題と国連特別報告者の仕事

現在スウェーデンで4万5000戸のアパートを所有し、スウェーデンで最大、ヨーロッパで第二位の賃貸住宅供給企業となっているHeimstadenは、高騰する金利コストを入居者に負担させる形で、大きな賃貸料の値上げを行っている

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SBBは急成長してきたスウェーデンの不動産会社で、社会民主党の地方行政で活躍した政治家イリヤ・バトリャンが創業し、主に自治体が所有する不動産物件を購入し、それをまた自治体や賃貸するというビジネスモデルで成長してきた。Heimstadenと同じで、これまでは安い家賃の公共住宅に住んでいた人たちの住居がSBBに売却され、賃料が引き上げられることになった。

SBBには、Heimstadenではそれほど大きくなかった別の問題がある。スウェーデンの自治体の半数以上である約180の自治体が、SBBに所有する物件を売却した後、賃借しており、その家賃が高騰して自治体の予算を圧迫している。ヘルノサンド(Härnosand)市はSBBに最も多くの家賃を払っている自治体で、年間1億クローナ(約13億3000万円)を校舎や医療センターなどの賃料として払っている。SBBは今年平均11%の賃料値上げを実施した。

ヘルノサンドだけではなく、市が所有する不動産の売却をSBBに決めた自治体の多くは今後悔しており、できれば買い戻したいと考えていると表明する声も多数ある。私がエルの連載で取り上げたシュレフテオのサラ文化センターも土地をSBBがコミューンから買い取ってプロジェクトを進めたものだと昨日の報道で知り、驚いた。

www.elle.com

この賃料の値上げでこれらの自治体の多く(124コミューン)が今年度赤字に陥る見込みで、そのツケは教師や職員の削減や、道路や公園設備への投資の削減、または地方自治体税の値上げで賄われると予想されている。

そしてSBBの株式はストッホルム株式市場での小口顧客の人気銘柄としても君臨してきたが、金利上昇の影響を受け、不動産購入のためにおこなった負債が山積みとなり、株価は急下落。30万人が所有するSBBの株価は今年に入って70%も下落した。この5月頭には新株発行は中止され、予定された株主への配当も延期。イリヤ・バトリャンはCEOを辞任した。

そしてSBBにはさらなる問題もあり、この会社はスウェーデン防衛軍の軍事施設で最も歴史のあるDalregementetを所有しているが、経営不振で今この軍事施設の売却を検討している。しかし、現在スウェーデンには防衛・機密情報を含む不動産の所有者を規制する法律が存在しないため、この軍事施設が不適切な外国人所有者に買われてしまう可能性があるのだ。

ニュースでは中国や香港資本が買収に関心を示していると報道されていたが、この問題に対して当初介入する予定はないと答えていた政府は、その後、機密性が高いと考えられる施設の所有権に関して洗い出しをする方向へと舵をとった。SBBはいくつかの警察署の建物も所有しているし、そのような建物は買い手がスウェーデン資本であっても、問題があるような人たちに渡ってはどう考えてもダメなことは私でもわかる。

SBBの動向はついに日本にも届く国際ニュースにもなったようで、昨日の日経に最新のニュースに関する記事がでていた。

www.nikkei.com

SBBは、新自由主義の口車にのって効率や損得で物事を進めると、ここまでひどい事態に陥るという悪い見本がてんこ盛りになったような事例だと思う。日本の自治体のみなさん、大切な不動産やインフラを民間企業に売ってはいけませんよ!

SBBの興隆と没落・株式市場で今急落する人気株銘柄(SVT)

スウェーデンの自治体の半数以上がSBBから物件を賃借(SVT)

イリヤ・バトリャンがSBBのCEOを辞任(SVT)

自治体が衝撃的な家賃値上げに直面(SVT)

© Hiromi Blomberg 2023