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オッペンハイマー、2論 その1

この人の書くものならいつでも読んでみたいと思っている人たちが、揃って『オッペンハイマー』について書いていた。いや、正しくはオッペンハイマーの映画そのものを批評しているのではなく、オッペンハイマーを見た後で、この世界の中で見えてくるものについて書いていたのだけれど。

ストックホルム王立工科大学の教授で、スウェーデンの環境史・思想史をリードする論客であり、政府の各種諮問委員会の委員を長く努めてきたスヴェルケル・ソルリン(Sverker Sörlin)は、『オッペンハイマー』の脚本の元になっている『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇(原題・アメリカン・プロメテウス)』が出版された後の2006年にすでに超骨太の評論を書いている。

Prometheus i USA. - DN.SE

今回ソルリンが映画をみた後で出した寄稿文には、まず『アメリカン・プロメテウス』をまとめたカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンの、40年以上かけて60以上のアーカイブ(中にはFBIの7000ページ以上に及ぶ電話記録や情報提供者からの証言を含む)と100以上のインタビューを通した仕事への言及がある。

この映画の監督、クリストファー・ノーランの仕事は称賛に値するが、バードとシャーウィンの仕事には及ばないというのがスウェーデンの多くの評論家の意見だとソルリンは書く。しかしノーランの映画はバードとシャーウィンの本より、はるかに多くの人の届くのだとも。

映画と本、その両方で着目すべきは、法の支配の腐敗をその細部にまで至り描き出していることで、オッペンハイマーに関する文書は真実と異なったものであり、彼は表舞台から追われてしまう。ここで、歴史を学ぶことの大切さと、情報の公開性と透明性はどのような犠牲を払っても確保しなければならないとソルリンは強調する。バードとシャーウインの仕事は情報公開の原則がなければ成り立たなかった。

そしてカリスマ性と道徳的責任感を武器に軍拡競争を批判した知識人であるオッペンハイマーのように、学者の意見が公共の場で尊重されること、メディアはその活動を認識し、また監視する重要性は現在ますます高まっているとまとめている。ソルリンの論考の背景には、最近のトランプの動向や、気候危機に関して学者たちが発言していることをだれもまともに扱おうとしない現状があるのは間違いない。

オッペンハイマーは1953年にBBCで行った講座をもとにしてまとめられた本の中で、知識の究極の目的は「改善する力」でなければならないと述べていることに、ソルリンは最後に言及している。

一日のブログ記事としては長くなってしまったので、もうひとつの小論の話はまた明日。

スヴェルケル・ソルリーン・オッペンハイマーは追放されなければならない沈考するヒーローだった(ダーゲンス・ニュヘテル)

© Hiromi Blomberg 2023