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ダーゲンス・ニュヘテルとペーテル・ヴォロダルスキ swelog weekend

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34歳で編集長

スウェーデンを代表する新聞ダーゲンス・ニュヘテルで、ペーテル・ヴォロダルスキが政治部責任者になったのは彼が30歳の時。その4年後の2013年、彼はわずか34歳で新聞の主筆・編集長となった。

ヴォロダルスキは編集長職とは別に、ダーゲンス・ニュヘテルで毎週日曜日に論説コラムも執筆しており、また毎週金曜日にその週のダーゲンス・ニュヘテルの中からお薦めの記事をまとめたメールマガジンも発行している。

今日のスウェーデンで意見、信条の違いをこえて、最も影響力のあるオピニオンリーダーの一人だ。

両親はポーランドから来たユダヤ系移民

彼の名前が示すようにペーテルの両親は60年代の終わりにポーランドからスウェーデンにやってきた移民だ。

編集長になった時に出演した、話題の人が自らを語るスウェーデンの夏休みに流される人気のラジオ番組では、第二次世界大戦下での母方の祖母の経験について語っている。

ヴォロダルスキは小学校の中学年だった時に自分の兄弟が「このユダヤ人!」と罵られるまで、自身の出目や自分たちの存在を嫌悪する人がいることを感じたことも考えたこともなかったという。

sverigesradio.se

神童子供ジャーナリストから数々の大抜擢まで

早くからジャーナリズムに目覚めたヴォロダルスキは、12歳で「子供ジャーナル」という子供向けのテレビニュース番組の記者になる。

その後スウェーデンの経済系の名門大学であるストックホルム商科大学に入学。高校生時代にはリベラルな自由党の青年部でも活動していた。

21歳で人気タブロイド紙のエキスプレッセンで署名入りコラムを書き始めたヴォロダルスキは、2年後、ダーゲンス・ニュヘテルで論説記事を書きはじめる。同じ頃TV8でテレビ番組の司会や解説者として出演しており、新聞とテレビの二足のわらじを履いていた。

その後、ダーゲンス・ニュヘテルの政治部責任者としてヘッドハンティングされた時は、奨学金をもらってハーバード大学でロシアの近代史を研究していたというキャリアの持ち主でもある。

編集長、発行責任者そしてサブスクリプション事業責任者

ヴォロダルスキは編集長として編集方針や掲載内容を決めるだけでなく、発行責任者として記事の内容全てに対外的な責任を持つ。記事内容に問題があるとされた時、訴えられるのは記事を書いた記者でも新聞社の経営責任を負う社長でもなく、発行責任者である(新聞社が同時に訴えられることもある)。ヴォロダルスキもつい最近もスウェーデン民主党にかかわるスクープ記事で訴えられた。

彼はさらに、紙とデジタルのサブスクリプション(購読者)ビジネスの責任者も兼ねている。減り続ける広告収入と紙の新聞の購読者数に対して、ヴォロダルスキがまずやってきたのは優れた記者をリクルートし読者を引きつける良質のジャーナリズムの提供によるデジタル購読者を増やすこと。もちろんデータの活用も忘れない。

最新の業績決算では全体の売上は減ったものの、ここでしか読めない優れたジャーナリズムをデジタルで提供することでサブスクリプションを増やし、これを事業の核とする戦略はうまくいっていると業界のコンフェランスで評価されている。

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先週ストックホルムで行われたデジタル・サブスクリプションのコンフェランスでプラットフォーマーについて話すペーテル

世界の新聞界で先進的な取り組みをしていると話題のニューヨークタイムスやガーディアンほどの派手さはないが、着実に軸足をデジタルの購読者へと移しているダーゲンス・ニュヘテル。

それを率いるペーテル・ヴォロダルスキは、これまでこんなに仕事してそれでもまだ40歳になったばかりの若さ。昔の成功体験にどっぷりつかった世代の経営者では、なかなかここまでラディカルな改革はできなかったのではないだろうか? 

新聞の未来を考えるには、これからもダーゲンス・ニュヘテルの動きから目がはなせない。

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2015年にペーテル・ヴォロダルスキが来日して、日本記者クラブで会見をした際のビデオがYoutubeにあります。新聞経営がおかれた状況や右派ポピュリズムと報道をとりまく危険まで話しているので、興味のある方はぜひどうぞ。英語で会話、日本語の通訳つきです。

グニラ・ヘルリッツ スウェーデン日刊紙ターゲンス・ニーヘーテル紙社長、ペーテル・ヴォロダルスキ同編集長 研究会「デジタル時代のスウェーデンの新聞経営・編集」 - YouTube

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