swelog ニュースで語るスウェーデン

スウェーデンの気になるニュースを毎日伝えるブログです

新しい街と大麻ハウス swelog weekend

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大麻ハウスの説明をしてくれたエコリューションのナイブ・ボルデマリアムさん

持続可能性について考える週間

私の住むルンド市は、ルンド大学と共同で、2017年から「持続可能性について考える週間」を開催しており、今週、3回めとなるイベントが開催された。

都市開発、移動手段、働き方といった興味深いトピックについてのワークショップやセミナーが、大学のキャンパスやホールなどあちこちで開催されだれでも参加できる。

大聖堂から大学、企業、そして欧州随一の研究施設へと広がる街

ルンドは、北欧の中でも群をぬく歴史と格式を誇る大聖堂が街の中心にあり、その隣には神学部を始めとする大学の文系学科が広がる。そしてその外側には医学部や理系、工学系といった学部が、大学が歴史と共に発展していった時系列順にわかりやすく並んでいる。

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街の中心は大聖堂。今年はマグノリアの開花がとても早い

大学のキャンパスが終わるあたりから、イデオン・サイエンスセンターやメディコンバレーといった、大学発の技術シードで起業する人たちにぴったりのオフィス地区へとシームレスに続いている。

これまではそのさらに外側、街はずれと呼ぶのにふさわしい場所にあったのは、ソニーやアクシス・コミュニケーションといったIT関連会社のビル群だった。

このあたりには高速道路の出口もあって車での移動には便利。コペンハーゲン空港からも40分程度で来ることができる。

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街外れというか街の一番はしだったソニーのビルあたり

ESS(欧州核破砕中性子源)とMAX Ⅳラボ

さらにその外側に目下建設中なのが、日本語で「欧州核破砕中性子源」というコワモテな名前のESSと、世界で一番パワフルと言われる高輝度放射光施設であるMAX Ⅳ ラボだ。

特にESSはこの手の研究ではヨーロッパ最大の施設で、完成すれば世界中から第一線の研究者が集まってくる。(ルンドのイノベーション・システムにについてはこちらの記事もどうぞ)

business.nikkei.com

新しい街、ブルンスホーグ 

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ブルンスホーグ地区とESS、MAX Ⅳ

さて、この新しい巨大研究施設の建設にあわせて、ルンド市では今、街の中心の鉄道駅からこのESSまで路面電車を建設しており、さらにESSに隣接する場所でブルンスホーグ(Brunnshög)という新しい街を つくっている。(このブログの写真にあげている写真に工事現場が多いのはこういう事情です。。。)

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路面電車を絶賛建設中

両研究施設やその他の企業、大きなスーパーやSystemet(国営の酒類販売店)を含む住宅区域全体が完成のあかつきには、4万人がこの地区に集まることになる。(現在のルンド市の人口は12万人強)。

ブルンスホーグでは研究施設からでる熱水を住宅へと循環させる、新しい低温地域熱供給のしくみが導入されたり、入居者でシェアする電気自動車付きの集合住宅の建設がはじまっていたり、最新の持続可能なアイデアに満ちた街になる。

産業用大麻、ヘンプという優れた植物

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産業用大麻から断熱材とヘンプクリートをつくるエコリューション

そんなわくわくする持続可能なアイデアの数々を紹介したセミナーの最後に登場したのが、大麻を使ったプレハブ建材の生産を開始した Ekolution (エコリューション)というスタートアップ企業だった。

エコリューションが提供しているのは、産業用大麻であるヘンプ(精神活性成分をふくまない大麻の品種)と石灰と水をまぜてつくる、いわば大麻でできたコンクリートの建材(ヘンプクリート)のプレハブパネルと、同じく大麻の繊維を使った断熱材。

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こちらがヘンプクリート

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断熱材各種。屋根、壁、床などあらゆるところで使える品揃え

ヘンプクリートは透湿性があり湿度をうまくコントロールし、断熱効果も高い。自然な殺菌効果もありカビなどを防ぐ上、耐火性能も高く火事にも強い。

また大麻は、成長する過程で二酸化炭素を多く吸収し、生産加工工程で発生するものと相殺しても全体では二酸化酸素排出量を減少させる優れた植物。

産業用大麻は4メートル近くまで100日ほどで成長し、スウェーデンの気候でも年に3,4回は収穫できる。このあたりのスピードと簡易さは、森の持つ二酸化炭素削減効果を補うものがあるといえそうだ。

大麻プレハブ建材パネルと大麻断熱材で建てる家

これまでもヘンプを使って建てられた家はスウェーデンにもあるが、エコリューションのビジネスモデルは、建材パネルをプレハブ形式で量産すること。使用する産業用大麻はスコーネのオストレーン地方の大麻農家で栽培し、建材パネル工場を目下クリファンスタ市に建設中だ。

(素材やモデルハウスの様子のニュースビデオ)

www.svt.se

(こちらはすくすく育つ産業用大麻畑)

 

www.instagram.com

大麻は亜麻(リネン)と並んで、スウェーデンでも伝統的に身近な植物だったが、第二次世界大戦後にアメリカの政策の影響で、栽培は長らく禁止されていた。

ヘンプの栽培はやっと2003年になって解禁されたばかり。建材だけではなく食用、繊維としても優れた植物なのに、今は、消滅していた栽培文化の立て直しと、同時に精神作用のあるマリファナ大麻(カンナビス)と混同される誤解をとくことが課題でもある。

これからの持続可能な住宅を展示するブルンスホーグの住宅ラボと呼ばれる場所に、エコリューションの大麻モデルハウスも建っている。

この家、燃やして煙を吸い込んでもハイになったりしないし、だいいち耐火性能抜群で燃えにくいそうですので、決して火をつけたりしないように!

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手前が大麻モデルハウス

© Hiromi Blomberg 2023