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スウェーデンの「寒冷浴場」巡り swelog weekend

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冷たい水

1999年夏のスウェーデンはいい天気に恵まれ、じっとしていると汗ばむほど。その勢いで誘われるままこの国で初めて行った海水浴で、私は北欧の底力(?)を知ることになった。スウェーデンの海は夏でも冷たい

太陽が白い砂浜に惜しみなく降り注ぎ、子どもたちははしゃぎまわっているのに、きらきら光る海水に足を伸ばせば、それは私には飛び上がるほどの冷たさだ。夏なのに海水はたったの18度。よくみると、ずっと海に浸かって遊んでいる子どもたちの唇は紫色だ。

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それまでに知っていた夏の海のあのなんともいえない生ぬるい気持ちよさとは異なり、スウェーデンの海や湖など自然の中の水場は夏であっても冷たい。生ぬるいとか生温かいといった言葉とは無縁だ。

「寒冷浴場」

そのスウェーデンの冷たい水の魅力が凝縮されているのが「カルバアドヒュース(Kallbadhus)」という施設だ。「カルバアドヒュース(Kallbadhus)」とはスウェーデン語で「冷たい(カル)浴場の(バアド)家(ヒュース)」という意味で、平たく言うと、海岸や湖畔で水上に突き出すように建っているサウナハウスのことだ。

利用者はサウナで体を温めてから真っ裸になって冷水に飛び込む。夏は別に冷水である必要もないのだが、先にも書いたようにこちらでは夏の海水や湖水もせいぜい20度くらいにしかならない。冬場は、水面が凍っていることもあるので、その場合はそこに穴をあけて沐浴する。

施設は一年中やっているが、特に人気なのが真冬と真夏。真冬は、熱々のサウナと冷水で血が体を駆け抜ける気持ちよさがあり、真夏はウッドデッキの上でこころゆくまで真っ裸でゴロゴロしたり海に入ったりする開放感が気持ちいい。

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初めての寒冷浴体験

冬の日本の温泉は好きだった私だが、真冬に冷水にはいる「カルバアド」のよさは自分で経験するまではまったくわからず、いくら気持ちがよいと誘われても丁重に断っていた。

ところがある日、自分のために企画されたパーティーのメインイベントが「カルバアド体験」で、そこで初めて裸で冷たい海にはいることを経験し、たちまちその魅力に取り憑かれてしまった。その時の体験はこんな感じだ。

”「今すぐに! 早く!」という声に押されて、また、冷たい突風の中これ以上全裸で立っていることに耐えることもできず、私は海に飛び込んだ。

驚くほどの水の冷たさに、一瞬で膝から下の脚の感覚が無くなる。ふっと気が遠くなりそうになり、慌ててデッキへ戻るはしごを駆け上がった。

あぁ、なんてひどい! こんなに寒く……、えっ、寒くない!? 心臓も……、止まってない!? 止まるどころか私の心臓は圧倒的なパワーでイキイキ働きはじめていた。血が体中を駆け巡るのがわかり、新たに大量の血液が送り込まれたところでは体が温かみを持つのが実感できた。

永遠のように思えても本当のところはほんの一瞬、裸の体を冷たい海水につけただけなのに、私は自分が驚くほどの身体性を取り戻して「新生」する体験に包まれていた……” 

この時の、体を血が駆け巡る気持ちよさがあまりにも衝撃的だったので、私がカルバアドを好きになったのは健康への効果が一番の要因だろうと自分でも長らく思っていた。しかしカルバアド歴が長くなるにつれ、魅惑の理由はそれだけではないことを理解するに至る。

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全裸で自然と対峙し自分の体に戻る

この体験を特別なものにしているのは、全裸で風を感じながらウッドデッキの上に立ち、そして全裸で海に入るというその身体感覚にある。

冬が厳しい北欧で重ねた服を脱ぎ、裸になって自然と対峙し、自分の身体に戻っていく。一人ひとり、自分が生身の体をもった生き物であることを実感する場所と儀式。それが私にとってのカルバアドだ。

私は今では誰にも頼まれてもいないのに「カルバアド親善大使」を名乗り、日本からの訪問客もカルバアドに連れて行く。日本の温泉もすばらしいけれど、北欧のカルバアドの魅力に一度はまると抜け出せない。

私はスウェーデンの最南端に住んでおり、幸いなことに北欧としては温暖なこのあたりの気候のおかげで、オープン・ウォーターでも真冬も凍ることが少ない。主なカルバアド寒冷浴場もスウェーデンの南西海岸に多く存在する。

19世紀末に建造が始まってから、一時は人気がなくなり寂れていた時期もあったカルバアドだが、最近、特に若い世代で人気が沸騰している。人気の施設ではサウナでは満員状態が続いているが、それでも冷水に入る時には「自分の体と冷たい水との特別な時間」を持つことができる。

また、私はカルバアドを愛する友人たちと「全国カルバアドヒュース巡礼者の会」を結成して、こちらで出版されているガイドブックも参考にしながら機会を見つけてはスウェーデンのあちこちにあるカルバアドヒュース寒冷浴場を訪れる旅を続けている。巡礼の旅では楽しむと同時に、建物や水質、周囲の環境、併設のカフェなどの評価と格付けも行っている。

そんな中からとっておきのカルバアドヒュース=スウェーデンの寒冷浴場を、これから少しづつ紹介していこう。

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© Hiromi Blomberg 2023