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マスクをめぐる裁判

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昨日、10日ぶりくらいで久しぶりにスーパーにいったら、初めてマスクをしている買い物客を見た。たった一人だけだったけど。

スウェーデンでは一般人のマスク使用率はこの程度だが、今、福祉の現場でのマスク使用をめぐる議論が迷走している。昨日は異例のスピードで行政裁判所が判決を出したがその内容は論点の中心を外れたもので、これからもマスクをめぐる議論は熱くはなればこそ、しばらくは収まりそうにない。

民営化が進んだとはいえ、スウェーデンでは基本的に医療は日本の都道府県にあたる行政が担当し、高校までの教育と高齢者施設や介護といった福祉サービスは市町村にあたるコミューンという行政単位が担当してきた。

今回のマスク裁判は、高齢者施設でコロナに感染した入居者の世話をする職員が着用する防護用具に関する規定に起因する。

ストックホルムのとある高齢者施設で、防具バイザーは着用しているもののマスクなしでコロナ感染者の身の回りの世話をするよう指示された職員が、自身の身の危険を感じながら勤務している状況が問題になった。

この状況に対して労働環境庁が出した通達が「コロナに感染した利用者(高齢者)の”身近で”働く職員は、防具バイザーとマスクの両方を着用して任務にあたるものとする」というもの。スウェーデンでは、防具バイザーは全国各地の3Dプリンター所有者有志がボランティアでせっせと作っていたりもするが、マスクは簡単に手に入らない。

マスク着用がこのまますべての市町村の同様の施設で義務化されると、高齢者施設を運営するコミューン側はマスクが調達できない場合、職員に職務についてもらうことができなくなる。雇用者側の利益を代表するSKR(スウェーデン地方行政連合会)が「マスク着用は一律に決められるべきではなく、現場の状況に合わせて対応するとすべきだ」との声を上げていた。

今回、問題が明らかになってから異例のスピードでこの件を巡る裁判が行われ、一定の判決がだされたが、それはマスク着用が是か非かを決めるものではなく、労働環境庁がだした通達の「”身近で”働く」という内容があいまいで、規則として認められないとしたものだ。

並行して、労働環境庁はコミューン側から通達内容に反対する声が高くなった時点で、裁判の結果を待たずして通達内容を緩和する形で(密かに)修正を行っており、この行為が行政権や行政監督法の研究者から厳しい批判を受けている。

労働環境庁はスウェーデンで最大の雇用者である行政を監督し労働者を守る役目なのに、行政側から噴出した文句でそれをやすやすと陰で変更するとは何事か! というのが行政監督法の大学研究者たちからの批判だ(これには私も同意する)。

福祉の現場でマスク着用は義務付けられるべきなのか、それともその場その場の状況判断に委ねられるべきなのか、この問題に関して公衆衛生庁はまだその見解を発表しておらず、論争が落ち着くまでにはまだしばらくの時間を要しそうだ。ただただ、介護施設等の現場の職員の人たちの不安な状況が一日も早く改善されることを祈ります。

行政裁判所は高齢者施設に関する労働環境庁の通達を無効とする判決

専門家はマスク使用をめぐる行政の対応を強く批判