とはいっても、直接的には、今ベラルーシとポーランドの国境の森でひどい状況に置かれている難民の人たちの話ではなくて、今から150年程前にスウェーデンを襲った飢餓と貧困からアメリカに渡った『移民者たち』の話だ。
スウェーデンは、今、移民や難民を多く受け入れていることでも世界の中でもかなりユニークな国だと思うが、19世紀後半、20世紀初期に国民の5分の1近くもの多くの人たちがアメリカなどへ移民していった歴史がある、という点でもかなりユニークだと思う。
そして、その時代を描いたスウェーデンを代表する、映画にもなった文学作品といえばヴィルヘルム・モーベリの一連の『移民』シリーズ。
映画一作目である『Utvandrarna(「移民として出ていく者たち」の意。日本での公開時のタイトルは『移民者たち』』)は、北欧を代表する俳優マックス・フォン・シドーとリブ・ウルマンの主演でヤン・トロエルが監督して1971年に公開された。アカデミー賞の作品・監督・主演女優・脚色、さらに外国語作品でノミネートされた歴史に残る名作だ。
上にリンク貼った記事で書いたこの新しい『移民者たち』が、長い準備・製作期間を経て、このクリスマスから劇場公開される。よりよい暮らしを求めて新しい土地へと向かう人間の営みは今も昔も変わっていない。
監督のエリック・ポッペはこの映画の制作にあたり、新しくスウェーデンにやって来た移民たちにインタビューをして、祖国を離れた土地で生活を築いていくというのはどういうことかを理解しようと務めた。
人間はより安全な場所へ、よりよい生活ができそうな場所へと大移動を繰り返してここまでやってきた。ポッペはこの新しい『移民者たち』の中で「ホーム」となにかを探求したと話している。それは場所なのか? 関係性なのか? それとも家族の構成員なのか?
前作からちょうど50年のタイミングで発表されるこの映画、その大作ぶりは10年に1度のレベルと言われていて、公開前から既にスウェーデンのアカデミー賞であるゴールデン・ビートル賞の7部門でノミネートされている。
しかし映画批評家の意見は、前作を超えることのない凡庸なものかつ重要な主題(国家や教会からの抑圧)を欠くと厳しいものが多い。1本の小説から10エピソードのテレビドラマシリーズがストリーミングで流される今、4冊からなる超大作小説を2時間28分の映画にする意味はあったのかと。
でも私はこの超大作をスウェーデンへの移民として、歴史の勉強もかねてやはり映画館でみたいな。
今作でのみどころは、前作では愚痴ったり心配してばかりの妻として描かれていた主人公のクリスティーナが、内面のある女性として描かれている点のよう。これはこの50年ですすんだフェミニズムのおかげか? クリスティーナを演じたリーサ・カルレヘッドがあちこちで絶賛されています。
『移民者たち』リメイクが公開へ。「今日になっても人は逃げ続けている」(SVT)