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39巻、3万3111ページ、107キロのスウェーデン語辞典、140年の歳月を経て完成、の舞台裏

「Rまでに関わった人はみんな死んでしまったが、S以降の人はまだ10人ほど存命だ」

とか書かれていると、なんだかミステリーでも読んでいるような気がするが、これはスウェーデン語の辞書の話だ。

すでに一ヶ月ほど前にAFP通信も配信し、世界中のメディアが報道しているが、最近出たダーゲンス・ニュヘテルがこの「スウェーデンアカデミーの辞典(SAOB)」の編集部を訪問した記事が面白かった。なんと編集部はルンドにあった。(辞書完成のニュースの概要はこちらでも)

mainichi.jp

著名な建築家が1960年代に自宅としてルンドのお屋敷街(教授村という名前)に建てたモダニズム建築の建物に、スウェーデン・アカデミーの辞書編集室はある。1999年にこちらに移転してきた。

元マスター・ベッドルームがあった場所には、宇宙用語辞典から、カール・リンネの紀行本やレシピ本まで、約4000冊の本が並ぶ図書室として使われているが、そのなかで、編集チームが主要参考文献として上げるのが、500年前に近代スウェーデンをつくりあげた国王グスタフ・ヴァーサがつくった、初めてスウェーデン語で書かれた聖書である。この分厚い聖書、いまSVTで放映中の『スウェーデンについての歴史』にも登場していた。(この1541年出版の聖書は数年前にオークションで売りでていたよう。皮装丁は後年施されたもの)

www.bukowskis.com

140年続けられた編集作業に、フルタイムの編集者として関わった139人は、この聖書を始め2万4000近くに及ぶ情報源を参考にしてきた。1521年以降の言葉、51万1960項目を扱うSAOBは、普通に使われる辞書ではなく、この言葉がどの時代にどのように使われてきたかを取り扱っており、古い文献を読む際には欠かせないもので、主に言語や歴史の研究者が使う。

この辞書は1786年に設立されたスウェーデン・アカデミー(ノーベル文学賞の選出で有名か)の会員が編集し始めたが、その人たちは神学者、弁護士、歴史家など、特に言語の専門家でもなく、またあまりの作業量の多さに長らく放置されていた。

その後、作業は1880年代になってルンド大学の教授たちに引き継がれ、「A」からの第一巻が1893年出版される。世界中に「140年の年月を経て完成」のニュースが駆け巡った2023年10月25日の時点では、最終巻の第39巻は出版に向けての入稿が終わった段階だったが、この巻は正式には12月20日に開催のアカデミーの祝賀会でお目見えする予定だ。

通信社の配信記事にも書かれているように、スウェーデン語辞典はこれから改訂作業に入り、「今後7年かけて、「バービー人形」「アプリ」「コンピューター」など約1万語を追加していく」。編集作業は一時資金不足に襲われたが、現在は様々な方面から援助を受け、1億クローナ(約14億円)ほどの資金が集まっていて、18人の人が関わっているのだそう。最近の人はずっとスウェーデン語の最後のアルファベットの「ö」と何年も向き合っていたのだろうööööö ☺︎

SAOBは39巻並べると2.5メートルの長さになるが、本の形では図書館など約200部の販売を見込むのみ。でもこの辞書はオンラインで公開されていて、現代スウェーデン語の綴り方や(SAOL)や意味を扱っている別の辞書(SO・これが私たちの国語辞典の感覚に近い)と同じサイトで使うことができる。この素晴らしい辞書サイト、私も毎日お世話になっている。スウェーデン・アカデミーありがとう。

svenska.se – Akademiens ordböcker

スウェーデン語は、2つ、3つの別の単語をくっつけて別の複合語を作るのが得意だが、一番多くの複合語があるのは「skog(森)」という言葉だそうで、なるほど、これはスウェーデンらしい。

そう言えば名前に「is(氷)」が入っている人はアイスホテルで無料で結婚式をあげることができると、ずいぶん昔にIsmoくんという同僚から聞いた話を思い出した。DNの記事がおもしろかったので、今日のブログ長くなってしまった。すまぬ。

やっと完成・スウェーデン語の重みは107キロだった(ダーゲンス・ニュヘテル)

© Hiromi Blomberg 2023