- 「新聞」のビジネスモデルをリードするニューヨーク・タイムズ
- 後を追うダーゲンス・ニュヘテル
- 広告費はFacebookとGoogleへ
- ニュースサイトのデジタル広告
- 課金の壁と新デジタル読者獲得法
- PressReaderから未来を考える
- アップルが狙う読み放題サービス
- 日本はまずは、紙ありきを捨てる時
「新聞」のビジネスモデルをリードするニューヨーク・タイムズ
デジタル版有料会員数を2018年には前年から2割増の271万3000人まで伸ばし、好調なニューヨーク・タイムズ。
デジタル化により、これまでの紙の形態ではリーチが難しかった米国の他地域や国外、また若年層へも読者を広げる戦略と、ここでしか読めないコンテンツの強さで、この先もビジネスを伸ばしていきそうだ。
ニューヨーク・タイムズは広告事業でもデジタルへの移行が進んでおり、2018年10月〜12月期の決算ではデジタル広告からの収入が初めて紙媒体への広告を上回った。*1
後を追うダーゲンス・ニュヘテル
2018年3月にニューヨーク・タイムズとの提携を発表したスウェーデン最大の読者数を誇る日刊紙ダーゲンス・ニュヘテルも、痛みを伴いながら確実にデジタル化への移行を進めている。
2018年の決算では前年比で4200万クローナ (約5 億円) の利益が減ったが、その大きな要因の一つは紙媒体とデジタル両方で広告収入が減ったこと。コンテンツで稼ぐ方針をさらに明確化し、20名の新しいジャーナリスト雇うなど次の一歩を見据えた投資も業績結果に影響を与えている。
一方で、デジタル版有料読者数は約40%伸びて15万人を超え、紙版と合わせると合計32万5000人の購読者となった。
広告費はFacebookとGoogleへ
紙媒体の時代は大きな広告主と直接関係を保ち、購読料に並び大きな財源のひとつだった広告収入は紙の新聞が売れなくなり激減した。
デジタル領域でも、デジタル広告費は2008年時点では額としては少なかったものの、その78%はまだ北欧内の企業に落ちていた。それが現在では、63%がFacebookやGoogleの北欧以外のプラットフォーマーへと流れてしまっている状況だ。*2
ニュースサイトのデジタル広告
広告収入をGoogleやFacebookから取り返すのに、新聞のサイトが使っている手法は主に2つ。
1つ目はブロックできない全面広告。
Googleの検索結果や新聞社からのメルマガのリンクをクリックすると、ランディングページはまず一面を覆う広告だ。その上に小さなテキストで「記事を読むにはこちら」とテキストがあるだけなので、注意していないと広告をしっかりみせられただけでなく、さらにはクリックまでしてしまう。
もう一つは、日本では昔から雑誌も得意としていた「記事広告」。
メディアの編集者が広告主に合わせて記事っぽい広告を書いてくれる。日本の紙の新聞でもよくあるが、スウェーデンの新聞のサイトでは、この記事広告が上手に埋め込まれており、内容も興味深いものも多い。
広告ということはわかるので騙されているのではないけれど、読んでいるとちょっと複雑な気持ちにもなる。
課金の壁と新デジタル読者獲得法
EUとGAFAの戦いがどうなるのか、新聞社のGoogleに頼らない新しい広告への取り組みがどれほど成功するのかはまだわからないが、はっきりしているのは、デジタルの有料読者は一人でも多く集める必要があることだ。
日本ではまだ見かけるメーター制 (毎月5本〜10本は無料で読めるが、それ以上は有料)はスウェーデンでは読者獲得につながらないと判断されたようで、ほぼなくなってしまった。
新規課金ユーザー獲得のためにほとんどの新聞が採用しているのは、最初の一ヶ月無料などのお試し期間付きプランと、タブロイド紙などに多いプレミアムコンテンツだ。
2018年は4年に一度の国をあげての選挙があったので、多くの新聞で選挙期間中は無料で読め、その後いつでも解約できるプロモーションを提供していた。
ダーゲンス・ニュヘテルの場合は、この選挙時に7万の新規ユーザー登録があり、そのうちの1万8000人が若者層だった。
質がよい記事を作り、それを少なくとも1ヶ月は体験してもらうことで読者になってもらう今の作戦は一定の成功をおさめているようだ。あとは、体力が尽き果てるまでに安定経営に必要な数の読者を捕まえることができるのか、ここから先も時間との戦いである。
PressReaderから未来を考える
さて、日本でも図書館などで使えるPressReaderというサービスをご存知だろうか?
ウェブブラウザーやアプリで、世界120カ国以上、60言語の7000を超える新聞や雑誌の電子版が読めるカナダ発のサービスで、主に図書館等が契約し図書カードをもつ住民などに提供している。
私が住んでいるルンド市の図書館もこのサービスを提供しており、図書館のホームページから個人IDを使ってログインすれば、家のパソコンからでもいつでもアクセス可能だ。
日本語の新聞や雑誌は数が少ないが、新聞なら毎日新聞、雑誌なら婦人画報やサライなどが、発売日にネットで紙面そのままのイメージで読むことができる。もちろん無料だ。紙面がそのまま読めるほか、登録しておいた新聞や雑誌から今日読むべきニュースをまとめてくれるキュレーション機能もある。
毎日新聞はデジタル版だけなら月1000円以下なので、長らく契約していた日経をやめて(日経はデジタル版だけでも月額4200円と高い)購読し始めてから1年弱。
でもPressReaderを使えば無料で読めることに気がついた。、、どうしよう?
しかし、PressReader上でも記事のワード検索ができても、ネット上で記事を読むのは紙面イメージそのものの電子版より、有料の新聞社サイトの方が私にはいまのところ読みやすい。
もうしばらく並行して読んでみて決めようと思うが、おそらく私は毎日のデジタル版の有料購読をこの先もしばらくはやめないような気がする(これは毎日新聞に月1000円位なら払うから、応援したい気持ち)
PressReaderにはスウェーデンのもう一つの大手新聞スヴェンスカ・ダーグブラーデットも入っているが、かといってダーゲンス・ニュヘテルの購読をやめようとは思わない(これはダーゲンス・ニュヘテルの記事が純粋に読みたい気持ち)。
アップルが狙う読み放題サービス
目の前の問題だけでも大変な新聞業界に、もうひとつの新しい課題が迫っている。
アップルが、このPressReaderを思い起こさせる新しい「ニュース読み放題」サービスを間もなく開始するという噂だ。
アップルは10USドル程度でニュースのNetflixとなることを狙っており、3月にもサービス開始を発表したいが、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどのアメリカの主要新聞と契約内容(取り分の配分)でもめているという。
音楽業界はCD販売の全盛期も一曲ダウンロードの時代もはるか彼方、アップルやSpotifyがストリーミングの「聴き放題」サービスで月額課金する時代へ移行した。しかし、今後日本でもサブスクリプション契約数がどんなに増加しても昔の音楽業界黄金期の経済規模には戻れないという記事も見かけた。
このAppleの新しい読み放題サービスが始まれば、やっとなんとか持ちこたえれる方法を見つけることができた(?)新聞が、また新たな難題に取り組まなければいけないのは間違いない。
日本はまずは、紙ありきを捨てる時
急速にキャッシュレスの国となったように、スウェーデンではこの先きっと世界に先駆けて、物理的な「紙の新聞」はなくなっていくだろう。将来性のないものは次々に捨てていくのがこの国の習い。金融危機の際には業績の悪い銀行は救済されず倒産し、新聞社の危機には印刷やら配達やらの機能は容赦なく切り捨てていく。
今から10年ほど前、この本を読んだ。2011年新聞・テレビ消滅 (文春新書)
2019年の現在、日本の新聞やテレビは消滅はしていないけれども、いつデジタル中心のビジネススタイルになるのか、とても気になる。 デジタルになったからといって生き残れるかどうかもわからないその先の未来も、もうすぐそこなのに。
しかし、この先、新聞をやめた新聞社をどういう名前で呼べばいいのだろうか?