スウェーデン人が今一番多くアクセスするサイトの一つである、人気のタブロイド紙アフトンブラーデット。国民の半分以上が使うと言われているこのニュースメディアが、この度、気候危機ジャーナリスト賞を設立すると発表した。
環境問題への意識が比較的高いこの国では、それだけなら私も「ふーん」の感想だけだったかもしれないが、賞の審査員にヨハン・ロックストロームがいると聞いて、がぜんアフトンブラーデットの本気度を知る。
ヨハン・ロックストロームはスウェーデン人の環境学者で、現在の国際的な気候温暖化問題の議論において最も重要な学者の一人だ。長らくストックホルム環境研究所の所長を務めていたが、現在はドイツのポツダム気候影響研究所の責任者として活躍する。私にとって(そしてグレタ・トゥーンベリにとっても?)ヒーローのような存在の人だ。
アフトンブラーデットの賞は、気候危機問題への新しいアプローチと専門性を持った記者を称え、そのような記者養成を促進するために新設されるもの。この分野で特別な功績を残したジャーナリストに贈られるが、受賞者選定の理由として最も重要視されるのは「権力者の責任を追及する報道」という点になる。受賞者の発表は2021年10月に行われる予定だ。
賞の設立発表に際して、 同紙がヨハン・ロックストロームへの長いインタビューを掲載している。ロックストロームは「地球はがんにかかっているという認識が必要」といい、また今彼が「一番心配しているのは”海”である」と話す。
私たちは自分たちが直面するリスクに関して、3年前よりもはるかに多くのことを知っている。ティッピング・ポイントに近づいており、海面の上昇は予想以上に早く、また北極圏は思っていたよりもずっと脆弱で、サンゴ礁の状態ももう限界に近づいている。
このようなことがわかってきたにも関わらず、同じ3年間で世界的に見ると二酸化炭素排出量は相変わらず増え続けた。
がんにかかっているという認識が必要というのは、私たちは今の状況を正しく判断することが重要で、自分の病気を正しく知り、それに合わせた治療法で対応することが必須となるということだ。
がんに罹っている時に、ちょっと肺が炎症を起こしてるだけ、というまやかしの診断はいらないし、深刻な診断結果はその先の行動を変えることもわかっている。そしてあまりの深刻さに希望をなくしてしまうのではなく、危機を希望に結びつけることで乗り切る道はある、とロックストロームは私たちを勇気づける。
これまでも「気候闘争」「私たちの地球」「ひどい気候」や「気候の騎士たち」といった連続特集記事を組んできたアフトンブラーデットは、Klimat-Liveというリアルタイムで気候問題ニュースを更新していく特設サイトも新設した。これは、新型コロナに関する同じようなサイトページに似た構成。コロナも気候も今ここにある重大な危機だから当然といえば当然のページ作りだ👍
ヨハン・ロックストロームは気候ジャーナリスト賞に関して「これまでは経済、スポーツや外交問題を扱ってきた記者たちも、今後はどの分野のジャーナリズムでも気候危機問題を切り離して考えることはできなくなる。最高の気候問題ジャーナリストは驚くほど多くのことに通じていなくてはならない」とも話していた。
スウェーデンでは憧れの職業としてジャーナリストの人気は衰えていないようにも感じているが、この仕事で食べていける人は以前と比べてぐんと減っていることも事実。社会の中でジャーナリストの位置づけが、また変わってくることも期待したい。