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「金に魂を売ったOatly」論争の残念なところ

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スウェーデンのオートミルクの人気ブランド、オートリー(Oatly)が、アメリカのリスクキャピタル大手のBlackstoneが中心となった投資ラウンドで2億ドルを調達したことが、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道で今週の水曜日に明るみになった。

Blackstoneは、アメリカでも一二を争う大手のリスクキャピタルで、アマゾンの森林伐採を推進するようなプロジェクトにも投資するなど、社会的、倫理的な合理性よりは、素早い投資リターンを求めて世界(の裏側?)で大きな存在感を持つ企業。

気候危機問題へ挑戦することを会社の使命として掲げているオートリーが、そんな企業から投資を受けたとのニュースに驚いたのは私だけではなかったはず。

そもそも、オートリー(Oatly)って何? という方はこちらをどうぞ


オートリーはもともと牛乳アレルギーや乳糖不耐症の人のためにルンド大学の研究者が国内産穀物を使って開発したミルク代替品である。1990年代に開発され豆乳と一緒に細々と売られていたが、2012年に新しくオートリーのCEOとなったトニ・ペーテルソンが製品のポジショニングを大きく変更し、気候危機問題の議論の成熟化を背景に牛乳の環境への問題点を指摘するアグレッシブなアンチ牛乳広告キャンペーンを展開し物議を醸しながら成長を続けてきた。

詳しくはこちら

「牛乳なんてやめろ!」広告戦争とその未来 swelog weekend - swelog 今日のスウェーデンのニュース

そんなオートリーに怒りの声を上げた一人が、ドキュメンタリー監督のフレドリック・ゲルテンだ。ゲルテンは、オートリーの地元でもあるスコーネ地方の新聞紙上とTwitterを舞台として「オートリーは魂を売った」と、オートリーへの激しい批判を繰り広げた。

ゲルテンは世界の巨大資本の思惑とそれに翻弄される名もなき市民の戦いを取り上げた一連の優れたドキュメンタリーで定評のある監督。 

これまでに、巨大フルーツ企業ドールとニカラグアのバナナ農民の戦いを描いた『Bananas!*』や、そのドキュメンタリーをつくったことで、自らもドールに訴えられた経験をフィルムに収めた『Big Boys Gone Bananas!』(日本ではこの2本を『バナナの逆襲』第一話、第二話として公開)や、さらには自動車業界の政治への圧力を取り上げた『Bikes vs Cars 車社会から自転車社会へ』などを世に問いてきた。

そんな彼が2019年に発表したのが『Push』。ここでは都市の低所得者向け住宅が資本に買い取られ、住むところがなくなってしまう人々を取り上げていた。その中で資本側として大きく取り上げられていたのが、このBlackstoneという企業である。

『Puch』の内容に関してはこの記事をぜひ!

スウェーデン発ドキュメンタリー『PUSH』で学ぶ住宅問題と国連特別報告者の仕事 swelog weekend - swelog 今日のスウェーデンのニュース

 ゲルテンの批判に対して、オートリーのCEOのトニ・ペーテルソンは「オートリーは魂を売ったわけじゃない。Blackstoneにグリーンな分野に投資させることに成功している」と反論。世界を変えるには突き抜けた行動が必要だ、との考えは変わらず、そのためには一定の資本が必要なことを説明する。

一方ルンド大学のブランド・マーケティングに詳しい経営学教授のヨハン・アンセルムソンは「今回、Blackstoneを株主として迎えたことで、オートリーから消費者が離れていく可能性は低いだろう」とみている。

大多数の消費者は結局のところ、スーパーの店頭で企業の株主構成まで考慮して何を買うか決めているわけではない。仮に企業の社会的責任や倫理面を重視して購入を決める意識の高い人たちがいたとしても、そのような人たちは、オートリーが数年前に大株主として中国政府系の投資会社を受け入れた時に、既にオートリーをボイコットしていただろうという見方もある。

と、ここまで書いてきて、私がなんとなく残念だなぁ、と思ったのは北欧でよくとれるオート麦を使って環境負荷の低い優れたローカルな飲み物だったオートミルクは、いまや中国とアメリカの資本にまみれ、世界のミルク市場を塗り替えるという挑戦にでてしまった、という点だ。

世界を変えるには大資本がいるのだろうが、果たしてオートリーはそんなことを目指す必要があったのだろうか? もし必要があったとして、なぜオートリーはスウェーデンで、そしてヨーロッパで投資家をみつけることができなかったのだろう?

Blackstoneはつまるところ、投資は多くのリターンをつけて回収しようと考えるだろうから、このまま物事が進めば、Body Shopがロレアルに、Ben & Jerry'sがユニリーバに買収されたように、オートリーもBlackstoneからさらにダノンあたりに売り飛ばされる運命にあるのかもしれない。

それで結果的にオートミルクを飲む人が増えればそれでいいのかもしれないが、オートミルクはヨーロッパの片隅で飲まれるローカルな代替ミルクのままであり続ける道もあったよね? なんだかなぁ、モヤモヤして、残念だと思ってしまうのはなぜだろう?

以前、ルンドで行われたセミナーで、オートリーのCEOのトニさんと一言二言、言葉を交わしたことがある。お母さんが日本人であるトニさんが私の外見からか「日本人?」と話しかけてきてくれた。その時に何を話したのか詳しいことはよく覚えてないが、オートリーが目指す未来を語る彼の目がキラキラと輝いていたのをよく覚えている。

アメリカの大資本を受け入れたり、株式上場がささやかれたり、なにかと「金」の話題が続くオートリーだが、トニさんの目が今もキラキラと世界の変革を目指して輝いているといいんだけど。

有識者がオートリーに関するコメント「もっとひどい例もある」