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気候変動と原子力発電と、廃炉が作る未来の仕事 swelog weekend

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マルメの人気の海岸からも遠くにバーセベック原子力発電所が望める
日本とスウェーデンではかけ離れている原子力発電の使用状況と国民の態度

日本で原子力発電をめぐる議論が持ち上がる時は、安全性の問題に議論が集中することがほとんどのようだ。実際に、2011年の東北地方太平洋沖地震の際に福島第一原子力発電所では放射性物質の放出事故が起きた。現在も安全性の観点から再稼働したものは少なく廃炉が決まったものも多いが、高レベル放射性廃棄物の最終処理場の問題も解決していない。

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一方、一度は早くも1980年に国民投票で段階的な原子力発電所の閉鎖を決めたものの、現在も使用電力の約42%を原子力発電に依存しているスウェーデン。

自国の原子力発電所の安全性に自信を持っており、廃棄物の最終処理場もずいぶん以前から決まっている。しかし近年は政治的判断ではなく、経済的合理性から電力企業が自らの判断で原子力発電所を閉鎖する流れが顕著だ。

さらにはこの夏、新たな原子力発電に関する議論が熱い。今回の焦点は、この先予想されている電気自動車をはじめとする新たな電力需要の増加と、喫緊の気候変動問題をどうすり合わせていくのか、という一点につきる。

「パンが焼けない」で火のついた原子力発電新設の議論

原子力を除くと、スウェーデンの電力の多くは豊富な水源をつかった水力発電(2018年では使用電力総量の38%を供給)で賄われており、その発電所の多くがスウェーデン北部に集中している。北で作られた電力は人口と電力需要が集中する南部に送電しなければならないが、この送電網がいまのところ脆弱だ。

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最南部のスコーネ地方には、スーパーでよく見かけるスウェーデンの製パン市場の40%弱を占める業界トップのポーゲン(Pågen)という製パン企業がある。

ポーゲンはさらなるビジネスの拡大に向けてパン工場をもう一つ建設したいが、今のままの状況では電力の供給面で不安があると訴えた。これが国政レベルでのエネルギー政策論争に拍車をかけることとなった。

ビジネス界、産業界に近い右派中道の穏健党党首は「気候変動問題へ対応しながら経済活動を伸ばすには、原子力発電を新たに建設するしか方法はない」と強く主張しており、これにキリスト教民主党、スウェーデン民主党、さらに以前より原子力発電に積極的な自由党の4党が原子力発電の新設賛成派となり発言力を強めている。

スウェーデンの世論は、チェルノブイリや福島の原発事故が起こった時には否定的な意見が増えたが、それ以外は原子力発電に肯定的な意見が比較的多く、今年に入って気候問題も反映してか賛成派がどんどん増えている。

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原子力発電は政治的問題から経済合理性の判断へ変わった

スウェーデンには、早くも1980年に国民投票で段階的な原子力発電所の閉鎖を決めたという歴史がある。その後、実際の廃炉への流れをつくったのは1986年のチェルノブイリの原発事故だった。当時12基あった原子炉のうち廃炉にすることが決定されたのは2基だけだが、その2基は私の家から18キロ離れたバーセベック原子力発電所にある。

バーセベック発電所の「終活」の話はちょうど1年ほど前にブログに書いたが、その後も廃炉作業は2030年の完全解体、更地化を目指して淡々と続いている。両基はそれぞれ運用を1999年と2005年に停止している

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その後、2006年当時政権を担当していた穏健党は、微妙なバランスで成立していた連立政権をまとめる必要から、原子力発電に関わる政治的判断をやめビジネス的な判断に任せることにした(連立政権が成立するためには、原子力発電に強く反対する中央党の協力が必要だった)。

原子力発電の新規建設を禁止する取り決めを廃止したのと同時に、政府の予算を原子力発電関連から引き上げ、それを風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギーの推進に使うことで微妙な均衡を保った。

結果、バーセベックの2基が止まった後も、2015年と2017年にオスカーシュハムンにある2基が停止し、さらに今後2019年から2020年にかけてヴァールベリ郊外にある4基のうちの2基の稼働が止まる予定だが、これはすべて、これらの発電所を稼動させていても利益が見込めないという電力会社側のビジネス判断より停止されるものである。

気候変動問題は原子力発電でないと解決できないのか?

稼働停止により原子力発電が供給していた電力生産がなくなってしまうだけでなく、これまで石油を使っていた自動車などが電力へとエネルギー源を変えさらに多くの電力が必要とされる今。

”原子力発電からの供給がなくなった分を石炭などの化石燃料による発電で補えば、二酸化炭素排出量が増え、気候変動問題がさらに悪化する。チェルノブイリ時代のような安全性の低い発電方式や運営方法は論外だが、最新の技術で新しい原子力発電を行うという方法こそが、気候変動問題に対処しつつ電力を安定供給するための最適解である。”

これが、穏健党・党首ウルフ・クリステルソンの主張の中心にある考え方だ。彼は「IPCC(「気候変動に関する政府間パネル」)の評価報告書にも原子力発電で二酸化炭素排出量を抑えることができるとの記載があり、IPCCも原子力発電を「推奨」している」と主張している。

本当にそうなのだろうか?

新しい投資は原子力にするべきなのか?それとも再生可能性エネルギー?

ルンド大学の環境・エネルギーシステム学のラーシュ・J・ニルソン教授は、スウェーデンにおいても、また開発途上国を含む世界全体でも、私達はこの先、原子力発電に頼らなくてもやっていくことができると先週末のスウェーデンの地方紙スッドスヴェンスカンのインタビューで答えている。

ニルソン教授は、気候変動とエネルギー問題に関する世界的な研究者で、まさに原発新規建設賛成派がその根拠とするIPCCの評価報告書の著者のひとりでもある。ニルソン教授によると、IPCCはいくつかのモデルを示しただけで、どの方法も「推奨」していないという。

スウェーデンには豊富な水力発電があり、風力もある。さらに太陽光を使う技術革新も日々躍進しており、2035年までにはまったく原子力発電に頼らなくとも再生可能エネルギーだけで電力供給を行うものありえない話ではない、というのがニルソン教授の見解だ。

スウェーデンは、2040年までにすべての電力供給を再生可能エネルギーからにするという国家の目標がある。穏健党は不安定な再生可能エネルギーにかけるよりもフランスのように、新しい技術を使った新規の原子力発電の建設を目指すべきだとし、国の目標自体を「再生可能エネルギー100%」から「化石燃料を使用しないこと(よって原子力発電はOKとなる)」への変更を提案している。

エネルギーにまつわる新しい技術と新しい仕事

ニルソン教授はさらに「再生可能エネルギー技術がすごい勢いで進化している現状を考慮すると、安全性と廃棄物処理の問題があって、兵器利用の可能性とも合わせて非常にリスクの高い原子力発電にこれ以上の投資をする意味はない」とコメントしている。

ヨーロッパではフランス以外にもイギリス、フィンランド、ポーランドなどが原子力発電推進派なのだそうだが、原子力発電は建設にも大変長い歳月を必要とし、新しい技術をすぐに応用、設置できる風力発電などと比べて、その点でも異なっている。

私の個人的な希望としては、スウェーデンは最新の優れた原子力発電技術に長けるよりも、再生可能エネルギーの最先端の技術開発に力をいれ、ぜひ「2040年までに再生可能エネルギー100%で電力供給」という気候変動問題に対処する現時点でのエネルギー政策目標を変更することなく邁進してほしい。

上で取り上げたスッドスヴェンスカンの記事では、今、バーセベックで廃炉に携わるエンジニア達にもインタビューを行っており、そのうちの一人が大変興味深い話をしていたのを最後に書いておきたい。

『この原子力発電所は世界トップクラス。私達は最高の操業技術を誇っていた。この先も30年は問題なく稼働できたはずだ。でもこれからは造ったものをきちんと片付け、正しく廃炉することが可能であることを証明する事に力を注ぐ』。

今後、世界で仮に原子力発電所の新設が増えることになっても、安全性や効率の面で問題がある古い発電所の閉鎖は続くだろう。スウェーデンの「原子力発電所の終活技術」はきっと大きなビジネスになるに違いない。そして日本も、これまでの技術をもってして原発終活のパイオニアを目指し、世界の原子力発電終活地図上にに大きな軌跡を残すことを目指す未来を描くというのはいかがだろうか?

 

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日本で育った人なら、原発を原爆と切り離して考えることは難しいと思います。

今年ももうすぐ広島と長崎の原爆の日がやってきます。それに先立つ8月5日(月)夜の9時からNHKのBS1で『BSスペシャル「ヒロシマの画家 四國五郎が伝える戦争の記憶」』が放映されます。

四國五郎(故人)は、私が大阪で働いていた時の会社の先輩でこのドキュメンタリーにも出演されている四國光さんのお父さんです。

www4.nhk.or.jp

6月に京都に帰った際に大阪大学総合学術博物館で開催されていた『四國五郎展』を訪ねることができ、久しぶりに四國光さんにお会いし、貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。

原爆のこと、広島のことを伝えるために一生を捧げた四國五郎の生き方は本当にすばらしいのですが、そういうことを抜きにしても、ただ単に彼の絵の持つパワーが半端ありません。本当にすばらしい画家です。この日、日本にいらしてBS1を見ることができる方は、ぜひこちらのドキュメンタリーを観られることを強く、強くお薦めさせてください。